トップアイドルは白衣の天使に恋をする-second-
荷物を置いて少し休憩したあと。

私たちは旅館の周りをゆっくり散歩することにした。

夕方前の柔らかい空気。

少し冷たい風。

都会とは違う静かな景色に、自然と肩の力が抜けていく。

「なんか久しぶりだね」

私がぽつりと呟く。

「こういうの?」

「うん」

「時間気にせず一緒に歩くの」

そう言うと、陽貴くんが隣で少し笑った。

「確かに」

そのまま自然に手を繋がれる。

指を絡めるみたいに。

温かい。

「……陽貴くん」

「ん?」

「すごく楽しい」

素直にそう言うと。

陽貴くんが少し驚いたみたいに私を見る。

そのあと、ふっと優しく目を細めた。

「俺も」

その一言だけで、胸がいっぱいになる。

旅館の近くには、小さなカフェがあった。

木目調の落ち着いた店内。

窓際の席へ座ると、外の景色が綺麗に見える。

私はカフェラテ。陽貴くんはコーヒー。

「なんか普通のカップルみたい」

私が笑いながら言うと。

陽貴くんがすぐに返す。

「普通のカップルだよ」

「……トップアイドルが何言ってるの」

「今はただの彼氏」

さらっと言われて、また心臓がうるさくなる。

陽貴くんは頬杖をつきながら、じっと私を見た。

「紗凪、今日ずっと可愛いね」

「もう……」

「気合い入れてくれたでしょ」

図星だった。

私は恥ずかしくなって視線を逸らす。

すると陽貴くんが楽しそうに笑う。

「嬉しい」

その笑顔があまりにも優しくて。

私まで自然と笑ってしまった。

旅館へ戻る頃には、空が少し赤く染まり始めていた。

部屋へ入ると。

陽貴くんが後ろから、ぎゅっと抱きしめてくる。

「……幸せ」

耳元で落ちる低い声。

「今日ずっと紗凪と一緒」

その甘えた声に、胸がじんわり熱くなる。

「お風呂入る?」

そう聞くと。

陽貴くんが少しだけ口角を上げた。

「一緒に?」

「っ……」

分かってて聞いてる。

絶対。

私は顔を赤くしながら、小さく頷いた。

露天風呂には、静かな夜風が吹いていた。

湯気の向こう。

柔らかい灯り。

隣には陽貴くん。

こんな時間が、本当に存在するんだって思うくらい穏やかだった。

「疲れてない?」

陽貴くんが優しく聞いてくる。

「大丈夫」

「ちゃんと力抜けてる?」

「……うん」

そう答えると。

陽貴くんがそっと私の髪を耳にかけた。

「最近ずっと頑張ってたから」

「今日くらい、何も考えないで」

その声が優しくて。

私はそっと陽貴くんの肩へ頭を預ける。

するとすぐに、包み込むみたいに抱き寄せられた。

静かな温泉の音。

重なる体温。

全部が心地いい。
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