トップアイドルは白衣の天使に恋をする-second-
「でもさ」

蒼依がポテトを摘みながら言う。

「普通にすごくない?」

「全国から集められたトップの中で指導者側って」

「しかも紗凪さんまだ若いし」

「うん」

奏も真面目な顔で頷く。

「俺、最初会った時ふわふわした可愛い人ってイメージだったのに」

「今もう完全に“出来る女”っす」

「いや元々出来る人だからな?」

俺が返すと。

「いや陽貴さんは最初から好きフィルターかかってたじゃないですか」

「それはそう」

即答。

また笑いが起こる。

でも実際そうだ。

紗凪は昔から努力家だった。

周りに見えないところで、死ぬほど頑張るタイプ。

出来ないことを放置しない。

誰より勉強する。

誰より患者を見る。

だから今そこにいる。

運とかじゃない。

そんな簡単なもんじゃない。

俺は記事を読み進める。

『プロジェクト指導者には全国の高度救命救急センターから選抜されたフライトスタッフが参加——』

その下。

指導者紹介の欄に、紗凪のコメントも載っていた。

『現場で本当に動ける人材を育てたい』

『知識だけでは救えない命がある』

短いコメント。

でも、すごく紗凪らしい。

すると優朔がふっと笑った。

「一ノ瀬さん、完全にプロの顔だね」

「うん」

「でも陽貴の前だとあんな甘えん坊なのにな」

「やめろ」

思わず即ツッコミする。

奏がニヤニヤする。

「え、気になる」

「俺ら知らない紗凪さんいるってことですよね?」

「知らなくていい」

「独占欲つよ」

「当たり前だろ」

もう開き直る。

すると蒼依が吹き出した。

「いやでもほんと安心しました」

「ん?」

「大阪行く前、紗凪さんめちゃくちゃ不安そうだったから」

確かに。

あの夜。

“怖い”って小さく漏らした紗凪を思い出す。

知らない土地。

新しい環境。

全国規模のプロジェクト。

プレッシャーないわけない。

でも。記事の写真の紗凪は、ちゃんと前を向いていた。

それが嬉しかった。

するとその時。

スマホが震える。

画面を見る。

——紗凪

一瞬で顔が緩む。

「うわ」

奏が即反応した。

「顔やば」

「ニヤけすぎ」

「うるさい」

俺は立ち上がる。

「電話?」

優朔が聞く。

「いや、多分LINE」

画面を開く。

『セレモニー終わったよ』

その一文。

その後に送られてきた写真。

控室らしい場所。

フライトスーツ姿の紗凪が、少し疲れた顔でピースしてる。

……可愛い。

保存っと。


いや待て。

待て待て。

その後ろ。

知らん男二人映ってる。

しかもイケメン。

「……」

空気止まる。

「陽貴さん?」

奏が怪訝そうに覗き込む。

俺は真顔で写真拡大した。

「誰だこいつら」

「出た」

「彼氏発動」

蒼依が爆笑する。

でも普通気になるだろ。

すると追加メッセージ。

『後ろの人たちは他の指導ナースさん』

『めちゃくちゃ優しい人たちだった』

「優しいんだ……」

なんかモヤる。

俺は少し考えてから返信を打つ。

『おつかれ』

『めちゃくちゃかっこよかった』

数秒後。

『え』

『見たの!?』

その文面だけで、焦ってる顔が想像できる。

思わず笑ってしまう。

『記事なってた』

『全国デビューしてたぞ』

すると。

『やめて恥ずかしい』

『しかもめちゃくちゃ緊張してたんだから』

俺はその文章を見ながら、小さく息を吐く。

……あぁ。

やっぱ好きだな。

遠くいても。

忙しくても。

こうやって連絡一つで元気になる。

すると向こうから追加。

『あとね』

『今日から本格的に始まるんだって思ったら、ちょっと怖かった』

その文字に、胸が少し締め付けられる。

俺はすぐ返信した。

『大丈夫』

『紗凪なら出来る』

それは、慰めじゃない。

本気だった。

すると少し間が空いて。

『……うん』

『頑張る』

その短い返事。

でも。

その“うん”に、ちゃんと覚悟が入ってるのが分かった。

俺はスマホを握りながら、静かに笑う。

離れてる。

会えない。

寂しい。

でも。

紗凪は今、ちゃんと前へ進んでる。

なら俺も。

ちゃんと頑張らないとなって思った。
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