トップアイドルは白衣の天使に恋をする-second-
俺はスマホを握りながら、静かに笑う。

離れてる。

会えない。

寂しい。

でも。

紗凪は今、ちゃんと前へ進んでる。

なら俺も。

ちゃんと頑張らないとなって思った。

スマホをポケットへしまう。

そして小さく息を吐いた。

「……さて」

メンバーたちを見る。

「俺たちも新曲に向けて頑張るか」

その瞬間。

「お、戻ってきた」

蒼依が笑う。

「さっきまで抜け殻みたいだったのに」

「失礼だな」

「でも分かりやすかったですよ」

奏がニヤニヤする。

「紗凪さんから連絡来た瞬間、目に光戻った」

「うるさい」

でも否定できない。

正直、かなり元気出た。

優朔がコーヒーを飲みながら静かに言う。

「まぁでも、お互い頑張ってる恋愛っていいよな」

「……らしくないこと言うじゃん」

「うるさい」

少し照れたように返す優朔に、みんなが笑う。

すると奏が勢いよく立ち上がった。

「じゃあ俺たちも負けてられないですね!」

「新曲、絶対当てましょう!」

その言葉に空気が変わる。

さっきまで休憩モードだった空気が、一気に仕事の顔になる。

蒼依がタブレットを開く。

「仮歌、今日もう一回詰める?」

「サビもっと感情欲しいよな」

「あとAメロのピアノ少し変えたい」

話がどんどん進み始める。

俺はそんなメンバーたちを見ながら、小さく笑った。

ほんと、このメンバーすごい。

普段ふざけてるくせに。

音楽になると全員本気だ。

すると奏が突然こちらを見る。

「陽貴さん」

「ん?」

「次の曲、ラブソングにします?」

「は?」

「絶対今の陽貴さん、良い歌詞書けますって」

蒼依が吹き出す。

「確かに」

「遠距離彼氏の情緒、今かなり乗ってるもんな」

「やめろ」

でも。

少しだけ考える。

離れて初めて分かることって、確かにある。

会えない時間。

触れられない寂しさ。

声だけで安心する感覚。

画面越しの笑顔で救われる夜。

全部。

今までよりずっと鮮明だった。

すると優朔がぽつりと呟く。

「でも陽貴の曲ってさ」

「昔より柔らかくなったよな」

「……そう?」

「うん」

優朔は真面目な顔で続ける。

「前はどっちかっていうと、強さとか孤独感とか多かったけど」

「最近、ちゃんと“愛されてる人”の曲になってる」

その言葉に、一瞬黙る。

愛されてる人。

……そっか。

そうなのかもしれない。

紗凪と出会ってから。

俺の世界は確実に変わった。

一人で抱え込まなくなった。

帰りたい場所が出来た。

守りたい人が出来た。

その存在が、音にも出てるのかもしれない。

すると蒼依がニヤッと笑う。

「タイトルどうします?」

「“大阪まで届け”とか?」

「ダサ」

「即答ひどっ」

笑いが起こる。

でもその空気が心地いい。

俺は立ち上がると、軽く伸びをした。

「よし」

「紗凪に負けてらんねぇし」

その言葉に、メンバーたちも笑う。

「おー、言った」

「珍しく熱い」 

「いつも熱いわ」

そう返しながら、俺はスタジオへ向かった。

大阪で命と向き合ってる彼女がいる。

だから俺も。

自分の場所で、ちゃんと前へ進きたかった。
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