イケオジ和風アイドル野宮のスマイル、そしてブロマンス
「茜ちゃん、ぼんやりして、どうかした?」
「あ、何も考えてないです。平常心です」

 彰さんのひと声で頭の中が完全に現実に戻る。

〝彰さんのことを考えていた〟なんて本人に言えるはずもなく。問いかけられると私は慌ててそう答えた。

 今日は私がこれからハンバーグを作る予定。材料を細かく刻んでコネコネするから食べやすいという理由でハンバーグに決めた。まだ抜いたところ辺りが痛いらしいから、より食べやすいミニミニサイズで。

「そういえば、思い出すなぁ……亮の乳歯が初めて抜けた時のこと」

 彰さんが呟く。

 なになに? 

 そろそろ立ち上がってキッチンに向かおうとしたけれど辞めた。聞いてから作り始めよう。

「いや。その話はいいから!」
「昔は、乳歯抜けるの怖がっていた亮を励ましていたのにな」
「恥ずかしいから、やめてって!」

 一瞬こっちを見た亮兄。妹の私に聞かせたくない話なのかな?

 「やめてよ」「いいだろ」みたいな。まるでイチャイチャするような雰囲気な彰さんと亮兄。そんな感じもよい。だけど今はそれよりも話の内容が気になる。

 彰さんが聞かせたくないと思う話なら、聞きたい気持ちは溢れるけれども遠慮を心掛ける。けれど亮兄に対してならあんまり遠慮はいらない生活を送っていた。

でも、ふたりの会話をそっと聞いていたい。
でもでも私は気になる気持ちを抑えきれずに、そっと聞き耳を立てていればよかったのに、横から口出した。

「何? すごく聞きたい!」
「それは、自分が小学六年生で亮が小学一年生の時だった……」

 彰さんはイケおじボイスな良い声で語り出した。普段何度も聞いてる彰さんの朗読やナレーションな感じそのまま! 本気で語るのを察知したからなのか、亮兄は黙った。

 というか、ふたりは幼なじみなんだよなぁと、あらためてしみじみ、そしてキュン。年齢差も一年生からしたら六年生ってかなりのお兄さんだよね。

 彰さんは淡々と美しいトーンで語る。

内容をまとめるとこんな感じだった。
ふたりは亮兄がまだ一本も乳歯が抜けていなかった時にレッスン教室で出会った。

彰さんは勉強熱心優等生タイプ、亮兄は感覚派で今はもう落ち着いたが当時はかなりヤンチャな少年だったらしい。ふたりは関わることがなかったが、ある日、亮兄が困った様子でいたから彰さんが〝レッスン関係のことで何か悩み事があるのかな?〟と、声を掛けてみた。悩みの原因は乳歯が初めてグラグラしていて怖くて不安だったかららしい。もうその頃の彰さんは乳歯が抜けるプロだったから、抜ける時は乳歯の根が自然に短くなっていくよなどの知識を伝え、怯えを先輩の包容力で優しく包み込み……とにかくたくさん励まし続けたのだそうな。そしてその後、夜ご飯中にその乳歯は抜けたそうで。

 喜びを分かち合い、亮兄は彰さんを尊敬してふたりは急接近。

 時は過ぎ、高校時代に五人組のグループ『天界の清純花』が結成され、同じグループに所属。やがて他のメンバーは脱退していき、現在はふたりで活動している。

ふたりは本当に下積み時代も長く、友情も熱く育まれていった尊い仲。

「ということがあった。今はあの時とは逆で、親知らず抜歯の件で励ましてくれている……」

 彰さんの予想外に長く深いい話が終わると私の心はじんとした。今にも溢れてきそうな涙を隠すために「ご飯作らなくちゃ」と、キッチンへ小走りした。

――言葉だけじゃ物足りない。タイムスリップしてふたりの光景をそっと見守りたかったな。

 なんて食材切りながら妄想していると、背後から彰さんの声がした。

「茜ちゃん、大丈夫?」と。

「えっ!?」
「いや、さっきも泣きそうになっていて……今もこうして涙を流しているから」

 泣きそうなのを隠していたつもりなのに、さすが人間観察の達人。わざわざ彰さんがキッチンに来てくれた。

「全然大丈夫。玉ねぎ切ってるから目にしみて……」
「そっか……自分も何か作業やることあるかな?」
「いや、大丈夫。彰さんはゆっくりして待っててください」
「うん、分かった」

 振り向かずにリビングに戻って行くだろうと思っていたら……振り向いた! そして一呼吸置いた後に彰さんは言った。

「涙を流しているより……自分も茜ちゃんの笑顔が素敵だと思うし、好きだから」

 意味深な言葉をキッチンに残し、ハニカミ笑顔を見せた彰さんはリビングに戻って行った。

「涙を流しているより……自分も茜ちゃんの笑顔が素敵だと思うし、好きだから」
「涙を流しているより……自分も茜ちゃんの笑顔が素敵だと思うし、好きだから」
「涙を流しているより……自分も茜ちゃんの笑顔が素敵だと思うし、好きだから」

 頭の中で言葉を繰り返していると頭の中でその言葉が膨張し、パンクしそうになってきた。

深い意味をずっと探しながらハンバーグを作っていた。だんだん気持ちが盛り上がり、言われた言葉も盛って解釈してしてしまう。

 えっ、ちょっと待って?
 私のこと、好きって言った?

――ある意味、告白?

 ううん、そんなわけない。
 だって、あの彰さんだもん。

 国民的アイドルで国民的スターで、そしてイケおじな国の宝、野宮彰さんだもん。

 天界なんて高いところ、届かない……そんなことを考えていたら少し寂しくなっちゃった。
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