婚約者のベッドに知らない女が寝ていたので、親友になって婚約者に復讐します。

第32話 女子二人のお部屋

「では、お二人はこちらの部屋をお使いください」

エドガーが案内したのは、クリニックの二階から廊下で繋がった、スタッフ用の宿舎だった。
大した差ではないかもしれないが、一階は防犯上の理由で繋げていない。

 「基本的に看護師の方々が一時的に使われる場所ですね」
「カンゴシ……?」
ミアが小首を傾げるとエドガーはスイッチが入ったように早口で説明した。

 「そうです!看護師!外国では正式に国家資格となっていて、専門の学校まであるのに、残念ながらこの国では、看護師は今のところ医師及び魔法医師の補助のみに留まっていまして、特に資格試験や免許といったものもない……。我が国の魔法使い人口が多く、魔法医師が幅をきかせてケアの必要性が認知されていないのがその要因と……失敬、話が逸れましたね」

「僕は近い将来、専門知識を備えた看護師のケアが患者さんの回復に寄与する事実が明らかになって、特に産婦人科では活躍してくれると信じています。
ですが我が国では看護師の名前すらなく、看護師に該当する仕事は血や創傷のイメージ、夜勤などの体力的な部分から、金銭的に困窮している訳ありの女性が就く職業となっているわけなんですけど、あの、うちの看護師たちは非常に優秀ですよ!」

首がもげるほどウンウンと頷きながらエドガーは続ける。

「技術面だけでなく、医療従事者として人として良い人ばかりだと思っています。
ええもう本当にどうしてこんなに優秀な人たちを世間は放っておくのかというくらいですよ。
一緒に暮らして働く上で、問題はないと思いますが、もし不安なことがあったら何でも言ってくださいね!」

 アリシアとミアはどちらともなく笑顔で顔を見合わせて、有難うございます!と頭を下げた。
 二人はコーヒーハウスでエドガーが少し席を外した際に、レイナルドが言っていたことを思い出していた。
◇◇◇

 「エドガーは優秀よ、本当憎らしいくらいに何でも出来るし、人に好かれる性格をしている。それに自分の利益度外視で人を助ける熱いところもある、さっきみたいにね」

「エドガーのご両親は穏やかで、お兄様たちもエドガーもそっくり。領地も安定しているし、特に派閥争いなんかにも巻き込まれることはなかった。
彼らの人柄と、エドガーの家が魔法医療研究で功績を残していたことが大きいわね、医療がなければ皆困るもの。エドガーの……そうね」

レイナルドは一度コーヒーを啜りなおした。

 「エドガーは跡取りの重圧もなく、貴族の家にありがちな争いにもほぼ巻き込まれず、金銭に不自由せず、愛されて育った。
そして医療に関わっていた家だから、なるべくして穏やかな医者になった。余計なことを考えなくて良かったからこそ、まっすぐに熱く突き進んでいけるんだけど、つまり彼には困難を超えた経験が少ないのよ。
それでさっきみたいにね、急に自信を失って日和ることがあるの。いい?そういう時は尻引っ叩いてやって。あいつはやれば出来るんだから」

◇◇◇

 「夜勤もありますし、まあそれは宿直室で済むんですが、就業直後は家がない女性も多いので、泊まれる部屋を用意しています。
 いずれは寮にしたいところなんですが、現時点では家なしの女性が仕事内容を理解せず家欲しさに突撃してくることが多々あるので、そこまで大々的に謳うことは出来ないんですよね。
 そういう思考は患者さんに伝わりますし、やはり仕事に誇りを持ってほしいですしね。他の看護師さんたちにも申し訳ないので、お引き取りいただいてるんです。
 家がない状況に同情はしますけど」

 そのような背景があって、エドガーとしてはスッキリしないところだが、あまり長く居つくのではなく、自立してほしいという意味も込めて簡素な部屋になっている。

 クリニックの横にあった、山高帽のような細長く古い建物を、所有者の婦人が手放すと聞いて、買い取って繋げただけで、内装はほとんど手を加えていない。

 廊下は狭く、床はところどころ軋む音を立てた。壁紙は少し剥がれて後ろの素材が見えている。

 エドガーは、レイナルドから娼館での話を聞いたとはいえ、それは数日だけの話であるし、二人が暮らしていけるか不安に思っていた。

 二人で一部屋というだけで普通の貴族子女なら遠慮したいと言うところだ。
 だからこそ、つい長々と話してしまったが、しかし二人が部屋を見たその反応は不安を吹っ飛ばすものだった。

 「可っ愛い〜!」
その小さな部屋にミアは小動物のように飛び跳ねて喜んだ。

 「はああ〜!これあの有名な御伽話の壁紙、うさぎにリスに、可愛い〜!私大好きなんです!」
「窓枠がまた可愛い!そしてこのカーテン、これフリンジに付いてる雪兎〜!!」

「ベッドが!ねえアリシア様見て!猫足ですよ!」
「あああ、照明がまた絵本の挿絵のような!」

「素敵すぎるぅうう!」

 想像以上に気に入ってくれたようで、エドガーは驚くとともに安心した。
たしかに、二人を貴族の少女だと枠に嵌めすぎていたかもしれない。

 この二人はとてもたくましいし、今あるもので幸せになれるのだ。

「マダムロザリンドには、レイナルドから上手く話してくれるそうなので、今日はここでゆっくり休んでください」

「はい!有難うございます!」
二人は一片の翳りもない笑顔でエドガーに礼を伝えた。
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