婚約者のベッドに知らない女が寝ていたので、親友になって婚約者に復讐します。

第46話 スキャンダル

 「魔法使いの方は、アリシア様のご家族とは別の目的をお持ちかもしれませんね」
フレイアの文字を見て、アリシアは背筋が凍った。

「別の目的?」
アリシアが震える手で書くと、フレイアは頷いて続けた。

 「例えば、侯爵令嬢であるアリシア様が、グレイ家の医師を頼れずに、街の産婦人科で厳重に隔離されながら入院している、というのはかなり目を引く雑誌の見出しになりそうですね」

「……虫によって回収した、都合の良い部分だけ切り出した音声という裏付けから、目を引く見出しの記事として、私を嘘の情報で売ってやろうということですか?」

「可能性の一つですが、そうですね。」

 アリシアの顔が真っ青になった。
 そういう視点で見れば、アリシアは最近疑わしい場所にばかり出入りしている。

「あのオリバーの婚約者だもの……婚約者も貞操観念がないなんて書くのは簡単だわ。どうすれば……」

 フレイアはふと手に持っているだけの小説を見た。市井でかなり流行っている恋愛小説で、仕事で疲れきった平民でも分かりやすい文章、過激な展開、テンポの良さで人気がある。

フレイアはそういった要素を入れて、記事案を書いてみた。

「権力を使って男性しかいないコーヒーハウスに入り、男漁りをするだけに飽き足らず、娼館で何日も職員として過ごし、性的欲求を満たし、その結果、家お抱えの医師には頼れないので、街の産婦人科にこっそり入院していると……」

「あんまりだわ……!」
フレイアの想像した記事の概要に、思わずアリシアは声を上げた。

「ああ、さすがに出版社に抗議が来たらしいですよ、そのキャラクターを死なせるのは展開としてないですよね」
フレイアはそう言って誤魔化した。

「ええ、いくらなんでも……」

 「先手を打ちましょう」
フレイアは筆談に戻し、スッと立ち上がった。

「あら、こんな時間……やだわ、ぼうっとしちゃって。では朝一でエドガー様に相談をしましょうね。ミア様もフレイア様も虫刺されには慣れていませんから、刺されると一般人より良くないかもしれませんし」

「ええ、本はお借りして良いかしら……」
「あらあら涙の跡が……、そんなにあのキャラクターがお好きだったんですね」

◇◇◇

 翌朝、エドガーの院長執務室。
「なるほど……確かに、まずい状況ですね」
エドガーは顎に手を当てて考え込んだ。

 エドガーの部屋はさすがに堅牢な防音の作りで、防犯魔法も掛けられていたので、三人は声を出して会話ができていた。

「……グレイ嬢の家では、常勤の魔法使いがいないということを踏まえると、今回限りで雇った魔法使いが金目的で雑誌社に売ろうとしているというのはありそうですね」

「はい。特に娼館の件は、かなり誤解を招きやすいかと」
フレイアが冷静に説明する。

アリシアは眉間に皺を寄せ、深く溜息を吐いた。

 「スキャンダル記事が出る前に、こちらから真実を公表するべきかもしれませんね」

「真実を……?」
「ええ。オリバーの犯罪や、そのせいで家を出たこと。私と行動を共にしているミアまで変な記事を書かれる可能性があるなら、そしてミアが許してくれるならミアのことも全部……。これだってセンセーショナルな内容ですから、先回り出来れば相手の記事を潰せると思うのです」

アリシアの提案に、フレイア、そしてエドガーも頷いた。
「確かに、それが最善策かもしれません。変に隠すより、堂々と事実を語った方が説得力がある」

「信頼出来る新聞社や雑誌社はありますか……?」
フレイアが不安そうに聞いた。

「そういうことを、配慮して訊いてくれる記者の方なら良いのですが……」

「……私が関わったコーヒーハウスで騒動があった時に、店について記事を載せてくれた雑誌社があります。そこにお願いしようかと」

◇◇◇

 フレイアに呼ばれ、院長室にやってきたミアは、アリシアの提案を聞いて、少し考えてから、決意を固めた。

「……分かりました。話します」

 「いいのよ!無理しないで!そんなに震えて……。ごめんなさい、私がまた行き当たりばったりであなたを巻き込んだりするから……」
アリシアは白い肌を更に青白く血の気を引かせて慌てて叫んだ。

ミアはスカートの上で揃えた手を押さえつけるようにしていたが、雪原にいるかのようにずっと震えていた。

「大丈夫です、元からどこかで記事にしてもらおうって思ってたんですもの……」
ミアが涙で潤んだ瞳を笑みの形に変えると、雫がホロリと流れた。

「ミア……」
その時だった。

 「先生ぇえ!ゴキゴキ!ゴキブリぃいい!」
恰幅の良い看護師が院長室のドアをドンドンと叩きながら叫んだ。

「ここの女性陣はゴキブリの一匹や二匹で院長先生を呼んだりしません。自分で退治できますし、むしろ先生の方が虫は苦手です」
フレイアがそう言い、エドガーがドアを開けると、看護師は文字通り転がり込んできた。

「『この新聞の中』にいるんですぅう!」
恰幅の良い女性は院長室にいる人間を確認し、安心したように頷いた。

「後片付けしっかりお願いしますね。私は『心配している看護師たち』を落ち着かせてきますので」
そう言って笑顔で出て行った。ミアとアリシアに強く視線を送りながら。

 エドガーが主に貴族や俳優などのゴシップを中心にしているその新聞を開いた瞬間、それはフレイアが先程言っていた内容とほぼ同じ記事が広がった。

「アリシア・グレイ侯爵令嬢の爛れた日常!権力を使って男性しかいないコーヒーハウスに入り、男漁りをするだけに飽き足らず、娼館で職員として勤務し、性的欲求を満たしていた!」
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