そのほくろに恋をした

あ、いいです。興味ないんで。


「ふぅ……」
 新社長就任から数日後。
 社長に渡す資料の山を抱えた私は、部屋の前で一度大きく深呼吸した。
 コンコン、と扉を叩くと「どうぞ」と扉の向こうから声。

「失礼します」
 扉を開けた瞬間、私は一瞬で硬直した。

 窓際で書類を読む社長の横顔。の……ほくろ。

「~~~~っ!!」

 待って無理。
 コンディション良くない!? ほくろの!!

 私は美しいその芸術(ほくろ)に吸い寄せられるように、ふらふらと社長へと近づいた。

「……何だ」
 不機嫌そうに繰り出される低い声。

「資料をお持ちしました!!」
「……あぁ」
 資料を渡して思わずじっと見つめていると、社長の眉間に皺が寄り、低く温度の無い声で言った。

「俺は女性に興味がない」
「……はい?」
「君も、仕事以外で近づくな」

 ぁ、これ勘違いしてる。
 今まで顔目当ての人が大量にいたんだろうな。
 でも大丈夫。私は違うから!!

「はい、大丈夫です!!」
「は?」
「私も社長に興味ないので!!」
 ぴたり、と社長の動きが止まった。

「私が好きなのは社長の口元のほくろなので、本体に興味はゼロです!!」
 むしろ私にとってはほくろが本体だしね。

 って…………あれ?
 意識をお顔全体に移せば、社長がものすごい顔でこっちを見ている。

 なんで?
 あ。もしかしてほくろのことよくわかってない?

「ぁ、右口角にあるやつです!! すごく綺麗で!!」
「……」
「しかもあの位置だとがっつり表情筋と連動しますよね? それが本当に素敵で!!」
「待て」
 社長がこめかみを抑えて俯いてしまった。

 あ、語りすぎた?
 でも仕方ない。
 推し(オタク)を前にするとオタクは早口になるんだよ。

「以上!! 失礼しました!!」
「お、おい!?」
 私はお辞儀をすると、すぐに社長室を出ていった。
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