そのほくろに恋をした

好きの種類


「──雪、お前、最近社長の話ばっかだな」
 ある日の職場で修二が言った。

「そう?」
「今日のほくろのコンディションとか聞かされる身にもなれ」

 それは少し申し訳ないけれど、仕方ないじゃない。
 素晴らしいものは共有したくなるんだから。

「で? 社長のこと好きなのか?」
 不機嫌そうに放たれた言葉に、私の時が止まった。

 好き?

「……え、違うよ」
「即答できてない」
「いや、だって」

 好きなのはほくろで──。
 そこまで考えて、思考が止まる。

 最近、社長が笑うと嬉しい。
 隣にいると落ち着く。
 名前を呼ばれると、むず痒い。

 ……あれ?

「雪、お前──」
 修二の声が真剣な色を帯びて、その瞬間、扉が開かれる。

 噂をすれば──入ってきたのは社長で、私を見るなり、彼は無表情のまま言った。

「雛形。至急資料を」
「は、はい!!」
 私は反射的に立ち上がるも、その瞬間、修二が私の腕を掴んだ。

「待った」
 一瞬にして、空気が変わった気がした。

「社長、雪を振り回さないでください」
「……どういう意味だ」
「そのままです」

 待って待って何言ってんの!?
 なんで修二が社長とケンカ?

 すると社長は静かに言った。

「仕事だ」
 淡々としたその言葉に、修二が舌打ちする。

「しゅ、修二?」
「……行けよ」
 恐る恐る声をかければ、不機嫌そうに手が離される。

 様子のおかしい修二を気にしながらも、私は社長について部屋を出た。


 ──廊下を歩きながら、社長が静かに口を開いた。

「君は彼に好かれてるんだな」
「へ?」
「気づいてないのか」
 私は首を傾げた。

 修二が、私を?

「まぁ、幼馴染なんで」
「……本当に鈍いな」

 そう言った社長の横顔は、なぜか少し不機嫌そうだった。
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