そのほくろに恋をした

ほくろ禁止令


 その日、修二とお昼を食べに出て、帰ってきたところで待ち構えていたのは──不機嫌そうな社長だった。
 
「雛形、会議室へ来い」
「は、はい」

 私……何かした?

***

 会議室についても、社長は腕を組んだまま、しばらく黙っていた。

 何? 怒られる?
 私何かやっちゃったの?
 ソワソワとしていると、社長がようやく口を開いた。

「……沖田と付き合ってるのか」
「へ?」
 予想外すぎて変な声が出ちゃったじゃない。

「つ、付き合ってません!!」
「……そうか」
 慌てて否定すると、途端に重苦しかった空気が軽くなった気がした。

「なら、いい」
「はい?」

 意味が分からない。
 でも……社長、機嫌が戻った?

「雛形」
「は、はいっ」
 社長の黒い双眸が私を捕える。
 それが妙に真剣で、鼓動が大きく胸を打つ。

「君は、男に無防備に近づくな。私にも」
「でも社長に関しては見えないと困るので。ほくろが」
 私が言うと、社長が眉間にしわを寄せ目を閉じた。

 あ、頭痛の顔だ。
 でも仕方ないじゃん。
 私にとっては重要事項だし。

 すると社長は突然、ネクタイを緩めてゆっくりと私に近づく。
 その例えようのない色気に、私は息を呑んだ。

「雛形」
「っ……」
 低い声が、耳元を犯す。

「男にそういう顔するな」
「ど、どういう顔ですか」
「……自覚なしか」

 社長がものすごく疲れた顔をした。
 え、なんで。

 すると社長は、再び私から離れてこう告げた。

「しばらくほくろ禁止だ」
「は!? 何でですか!?」
「何でもだ」
「横暴です!!」
「俺がルールだ」
「うぐっ」

 くそぅ‥…権力者め……。

「生きる意味が……」
「大袈裟だ」

 社長は呆れた顔をするけれど、口元が少しだけ緩んでいることに、私はすぐに気づいてしまった。

 ぁ、笑ってる。
 そう思った瞬間、社長が自分の口元を手で隠した。

「見せない」
「何で!?」
「禁止だからな」

 子供か。
 でもそのやり取りがなんだか楽しくて、私は、自分がもう“ほくろだけ”を見ているわけじゃないことに、気づかないふりをし続けた。
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