隣の席の悪魔 ―図書室の窓際―

図書室の窓際

夏。

セミの声が、
校舎の外からずっと聞こえていた。

窓の外。

大きな入道雲。

焼けるような青空。

でも。

図書室だけは、
少し涼しい。

「はぁぁぁ……」

私は貸出カウンターに突っ伏した。

暇。

眠い。

暑い。

「図書委員って、
もっと忙しいと思ってた……」

ぽつりと呟く。

その時。

ガラッ。

図書室のドアが開く。

「……またいる」

聞き慣れた低い声。

顔を上げる。

空くん。

白いワイシャツの袖を、
少しだけまくってる。

なんか。

夏っぽい。

「空くんこそ!」

私は思わず笑った。

「また来たの?」

空くんは返却棚に本を戻しながら、
ぽつり。

「暇」

絶対嘘。

だって。

最近毎日いる。

しかも。

毎回同じ席。

窓際。

カウンターから一番近い場所。

絶対わざと。



空くんは椅子を引くと、
いつもの席へ座った。

私は頬杖をついたまま、
じーっとその横顔を見る。

長いまつ毛。

切れ長の目。

静かな顔。

……ほんと。

図書室似合うな、この人。

その時。

「……なに」

本から目を上げないまま、
空くんが言った。

「え?」

「見すぎ」

バレてた。

私は慌てて視線を逸らす。

「べ、別にー?」

「変なやつ」

ふっと笑いながら、
空くんはまた本に目を落とした。

ずるい。

最近。

空くん、
前より笑う。



風が吹く。

開いた窓から、
夏の匂いが流れ込んできた。

カーテンがふわっと揺れる。

ページをめくる音。

遠くのセミ。

静かな図書室。

その時。

私はふと思い出したように立ち上がった。

「あ、そうだ」

本棚から一冊の文庫本を取り出す。

「空くん!」

「なに」

「これ面白かった!」

私は空くんの机へ向かう。

空くんはタイトルを見る。

そして。

少しだけ眉を寄せた。

「恋愛小説じゃん」

「いいじゃん!」

「読まない」

即答。

「えぇぇぇ!?」

私は思わず本を抱きしめる。

「絶対空くん好きだと思ったのに!」

「読まない」

「つまんない男!」

「うるさい」

でも、

翌日。

また窓際の席。

空くんの机の上には、
昨日の本が置かれていた。

「……読んでる!!」

私は思わず叫ぶ。

図書室に声が響いた。

空くんは、
少しだけ眉を寄せる。

「……静かにしろ」

「だって空くん、
読まないって言ったじゃん!」

「暇だった」

絶対嘘。

私はにやにやしながら、
向かい側に座る。

「どこまで読んだ?」

「半分」

「面白い?」

空くんは少しだけ黙って。

「……まぁ」

その言い方で分かる。

絶対ハマってる。

満足気な私を見て
空くんは目を細めた。




西日が、
図書室をオレンジ色に染めていく。

空くんは相変わらず本を読んでる。

私はカウンターに頬を乗せたまま、
ぼーっとその横顔を見ていた。

静か。

なのに。

全然退屈じゃない。

むしろ。

落ち着く。

その時。

空くんが、
ぽつり。

「……星野」

「んー?」

「図書委員、
似合わない」

「はぁ!?」

私は思わず立ち上がる。

「失礼なんですけど!!」

「静かじゃないし」

「うるさい!」

私は空くんの肩を軽く叩いた。

すると。

ふっ。

また少し笑う。

そして。

ぽつり。

「……でも」

「でも、なに?」

「別に」

「またそれー?」

「はは」

むすっと口を尖らせて
返却本を棚に戻す私。

しばらくの静寂の後

空くんが言った。

「なんか落ち着く、お前がいると」

はっとして振り返ると
空くんは何事もなかったように
また本を読んでる。

でも、私は見逃さなかった。

空くんの耳は、

いつもより赤い。




閉館時間を知らせるチャイムが、
小さく図書室に響く。

「空くーん。
閉めるよー」

私はカウンター越しに声をかける。

空くんは本を閉じながら、
小さくため息をついた。

「……うるさい」

「またそれ?」

「静かな場所なのに」

私は思わず笑う。

「でも、毎日来るじゃん」

ぴたり。

空くんの動きが止まる。

数秒。

そして。

少しだけ視線を逸らしたまま、
ぽつり。

「……お前いるし」

え。

時間が止まる。

私は思わず空くんを見る。

でも。

空くんはもう、
何事もなかったみたいに
鞄を持ち上げていた。

デジャブ。

ずるい人。


窓の外は、

入道雲。

遠くで鳴いてるセミ。

西日が、
静かな図書室をオレンジ色に染めていた。
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