悪魔の娘が帰還するまでーささやかな復讐と聖女の称号を添えてー
第三十章:何故私がそんなことを?
王族席の中央、老王は座したまま、虚ろな目で儀式を見ている。
アルヴェインは些か疲れているようだが、満足気に口元が微笑んでいた。その横にいるアイラは、アルヴェインの美しい容貌に見惚れていた。
(最低ね。フィンレイの言う通り。この国の王族も予言の乙女も、自分たちのことしか考えてない頭すっからかんばかり。)
王宮お抱えの魔法使いである、国家魔術師たちは、人体実験を厭わなかった魔導師長がオリヴィアに粛正されて以降、残ったまともな者たちは、王命と倫理の板挟みに立っていた。
(こんなもの……祈祷ではない)
誰かが唇を噛み、別の誰かが目を伏せる。だが自分が逃げたところで儀式が止まるわけではない。震える手で祭器を持つ。
「開始」
主神官の低い声。赤い円陣が一斉にに輝き、甘い香りが放たれそしてーー。
強烈な爆発音が鳴り響いた。魔法陣に沿って地面が捲れ上がり、石床は砕けて飛び、もうもうと煙が立ち込めた。
「何だこれは⁉︎」
「失敗です!儀式に失敗しました!」
「おい!贄の子供は無事か?!死んだら儀式のやり直しが…」
オリヴィアはわざと踵を踏み鳴らし、回廊から堂々と歩み出た。靴音が石床で高く鳴る。視線が一斉に集まった。
「贄の子供? それにやり直しですって…? そんなもの即刻中止なさい」
儀式場の高い天井に吊るされた、砕いたガラスを繋げた美しいシャンデリア。
儀式のための多くの蝋燭の仄かな灯りを集めて、星のような輝きでオリヴィアを照らしていた。
オリヴィアは銀の髪を長く垂らし、まるで月の女神のように凛として美しく立っていた。
王太子の婚約者時代のように高価なドレスではない。せいぜい豪商の娘が着るような薄い水色のワンピースだ。だがそれでも何かが彼女を高貴な存在だと裏付けていた。
オリヴィアを見留めたアルヴェインの顔が引き攣った。闘犬のように犬歯を剥き出して叫ぶ。
「オリヴィアぁああああ!まだ邪魔をするか!」
(何故だ何故だ何故だ!時期王太子妃の座は失い、実家からも見限られ、それでも何故そんなに堂々としていられる…‼︎ 俺とは違って……そうやって俺を馬鹿にして‼︎‼︎)
「王太子アルヴェイン殿下ではないですか。まさか多くの子供を贄にした儀式をあなたが主導されたのですか?」
軍人のひとりが動揺を隠しきれないまま、それでも王族を守ろうと使命感で詠唱を唱える。
だがオリヴィアの指先が一筆で魔界文字を切った。封印線。軍人の詠唱は実らず、口元でしゅう!と煙を上げるに止まった。
「知っているぞオリヴィア!“子供が消える夜”を邪魔して己の名を上げるために利用したな!」
「何のことでしょう、殿下。まさか全国的な子供の失踪は、この儀式の贄にするために王家主導で行われたことですか?」
「知っているくせに!我々が表立って動けないことを良いことに、そうして自分のことばかり見て、国のことには目を向けない!
こうしなければ国が滅ぶのだ!だから…」
「…だとすれば、そんな国、滅んだ方がマシですわ。未来ある子供の命を悪魔に捧げて、自分たちだけ抜け抜けと幸せを謳歌しようだなんて…その方がよっぽど悪だわ。」
「そんな理想論で…!民を救えるか!」
「民とは子供たちであり、その親ではないのですか?…ねえ、予言の乙女様」
不意に話題を振られ、アイラは扇で口元を隠した。オロオロと目を泳がせるが、全ての目がアイラを見つめている。
「え…あ、あたし、オリヴィア様はどうして邪魔するの? 国のための祈りなのに…」
「祈りじゃない。殺しよ」
オリヴィアの声は冷たかった。
「で、でもアルヴェイン様が国のために必要だって」
「じゃあ、あなたも子供を拐って残酷に殺すことに同意したのね?」
「う、いや、そんなの知らない…。」
「檻に入れられた子供たちを見て、魔法陣が血で描かれるのを見ていたのに?」
「え⁉︎あの赤いの血なの⁉︎やだ、気持ち悪い‼︎」
「〜〜っ!、ヴァルド‼︎」
苛立ちを隠さぬ怒声でアルヴェインは、権力の悪魔を呼び出した。
途端に全員の視界にヴァルドが見えるようになった。最初からそこにいたかのように、ヴァルドは魔法陣の上、オリヴィアのすぐそばに立っていた。
その場の誰も声に出さなかったが、どよめく空気が波のように伝わった。
(……この気配…悪魔⁉︎ あのバカ悪魔と契約していたの!?)
ヴァルドは軍人のような直立不動で、暗い色の重たそうな外套を纏っていた。引き結ばれた唇は何の感情も感じさせず、海底のような碧い瞳は自身を呼び出したアルヴェインを真っ直ぐに見つめていた。
「お呼びでしょうか?殿下」
「丁度良い。そこの女、オリヴィア・エルフォードの思考を操れ!そこで首を切って自害させろ!」
(まずい!)
オリヴィアが護符を胸にぎゅっと抱きしめた。
だがヴァルドはオリヴィアの方を見もせずに淡々と告げる。
「何故私がそんなことを?」
アルヴェインは些か疲れているようだが、満足気に口元が微笑んでいた。その横にいるアイラは、アルヴェインの美しい容貌に見惚れていた。
(最低ね。フィンレイの言う通り。この国の王族も予言の乙女も、自分たちのことしか考えてない頭すっからかんばかり。)
王宮お抱えの魔法使いである、国家魔術師たちは、人体実験を厭わなかった魔導師長がオリヴィアに粛正されて以降、残ったまともな者たちは、王命と倫理の板挟みに立っていた。
(こんなもの……祈祷ではない)
誰かが唇を噛み、別の誰かが目を伏せる。だが自分が逃げたところで儀式が止まるわけではない。震える手で祭器を持つ。
「開始」
主神官の低い声。赤い円陣が一斉にに輝き、甘い香りが放たれそしてーー。
強烈な爆発音が鳴り響いた。魔法陣に沿って地面が捲れ上がり、石床は砕けて飛び、もうもうと煙が立ち込めた。
「何だこれは⁉︎」
「失敗です!儀式に失敗しました!」
「おい!贄の子供は無事か?!死んだら儀式のやり直しが…」
オリヴィアはわざと踵を踏み鳴らし、回廊から堂々と歩み出た。靴音が石床で高く鳴る。視線が一斉に集まった。
「贄の子供? それにやり直しですって…? そんなもの即刻中止なさい」
儀式場の高い天井に吊るされた、砕いたガラスを繋げた美しいシャンデリア。
儀式のための多くの蝋燭の仄かな灯りを集めて、星のような輝きでオリヴィアを照らしていた。
オリヴィアは銀の髪を長く垂らし、まるで月の女神のように凛として美しく立っていた。
王太子の婚約者時代のように高価なドレスではない。せいぜい豪商の娘が着るような薄い水色のワンピースだ。だがそれでも何かが彼女を高貴な存在だと裏付けていた。
オリヴィアを見留めたアルヴェインの顔が引き攣った。闘犬のように犬歯を剥き出して叫ぶ。
「オリヴィアぁああああ!まだ邪魔をするか!」
(何故だ何故だ何故だ!時期王太子妃の座は失い、実家からも見限られ、それでも何故そんなに堂々としていられる…‼︎ 俺とは違って……そうやって俺を馬鹿にして‼︎‼︎)
「王太子アルヴェイン殿下ではないですか。まさか多くの子供を贄にした儀式をあなたが主導されたのですか?」
軍人のひとりが動揺を隠しきれないまま、それでも王族を守ろうと使命感で詠唱を唱える。
だがオリヴィアの指先が一筆で魔界文字を切った。封印線。軍人の詠唱は実らず、口元でしゅう!と煙を上げるに止まった。
「知っているぞオリヴィア!“子供が消える夜”を邪魔して己の名を上げるために利用したな!」
「何のことでしょう、殿下。まさか全国的な子供の失踪は、この儀式の贄にするために王家主導で行われたことですか?」
「知っているくせに!我々が表立って動けないことを良いことに、そうして自分のことばかり見て、国のことには目を向けない!
こうしなければ国が滅ぶのだ!だから…」
「…だとすれば、そんな国、滅んだ方がマシですわ。未来ある子供の命を悪魔に捧げて、自分たちだけ抜け抜けと幸せを謳歌しようだなんて…その方がよっぽど悪だわ。」
「そんな理想論で…!民を救えるか!」
「民とは子供たちであり、その親ではないのですか?…ねえ、予言の乙女様」
不意に話題を振られ、アイラは扇で口元を隠した。オロオロと目を泳がせるが、全ての目がアイラを見つめている。
「え…あ、あたし、オリヴィア様はどうして邪魔するの? 国のための祈りなのに…」
「祈りじゃない。殺しよ」
オリヴィアの声は冷たかった。
「で、でもアルヴェイン様が国のために必要だって」
「じゃあ、あなたも子供を拐って残酷に殺すことに同意したのね?」
「う、いや、そんなの知らない…。」
「檻に入れられた子供たちを見て、魔法陣が血で描かれるのを見ていたのに?」
「え⁉︎あの赤いの血なの⁉︎やだ、気持ち悪い‼︎」
「〜〜っ!、ヴァルド‼︎」
苛立ちを隠さぬ怒声でアルヴェインは、権力の悪魔を呼び出した。
途端に全員の視界にヴァルドが見えるようになった。最初からそこにいたかのように、ヴァルドは魔法陣の上、オリヴィアのすぐそばに立っていた。
その場の誰も声に出さなかったが、どよめく空気が波のように伝わった。
(……この気配…悪魔⁉︎ あのバカ悪魔と契約していたの!?)
ヴァルドは軍人のような直立不動で、暗い色の重たそうな外套を纏っていた。引き結ばれた唇は何の感情も感じさせず、海底のような碧い瞳は自身を呼び出したアルヴェインを真っ直ぐに見つめていた。
「お呼びでしょうか?殿下」
「丁度良い。そこの女、オリヴィア・エルフォードの思考を操れ!そこで首を切って自害させろ!」
(まずい!)
オリヴィアが護符を胸にぎゅっと抱きしめた。
だがヴァルドはオリヴィアの方を見もせずに淡々と告げる。
「何故私がそんなことを?」