君の言葉で夢を見たい
- ただ、座っているだけ -
ロビーフロアに降りた僕は、セットをしていない前髪で顔を隠しながらソファの端っこに腰を下ろした。
ゲストが誰もいなかったら気まずいな。
……人が多くても困るけど。
そんなことを思ったけれど、思ったより人が行き来していた。
左手のフロントでは、早くもチェックアウトをするゲストが何組か手続きをしている。
どのゲストもソファに座る僕を気にもとめずに、朝食会場になっているラウンジへ吸い込まれていく。
そんな光景を見つめながら、小さく息をついた。
そして目隠しのように配置されている観葉植物の影に身を寄せて、耳を澄ます。
「おはようございます」
「あさごはん……どこですか」
「ちょうしょく……ごあんない……」
「チェックアウトを……」
「おにもつ……しましょうか?」
日本語の意味はわからなくても、声のトーンや雰囲気だけで、ゲストの声とホテルの人の声の違いはなんとなくわかった。
その中に昨日のあの声が紛れていないか、スマホを見るふりをして聞き分ける。
電話の向こうから聞こえた柔らかい声を何度も頭の中で繰り返しながら。
ちがう……声が高すぎる。
ちがう……日本語じゃない。
ちがう……男の人だ。
しばらく頭の中で照合作業を繰り返したけれど、探している声は見つからなかった。
やっぱり無駄だったか。
そもそもホテルって……夜勤とかもあってシフトだよな。
昨日いたから今日もいるとは限らないか。
ようやくそんなことに気づいて、ため息をついた。
それと同時にカモフラージュとして、意味もなく画面をスクロールしていた親指も止まる。
声にだけ集中していたのを解除すると、人の足音やスーツケースを転がす音、奥のラウンジの皿が触れ合う音がどっと押し寄せてきた。
……部屋に戻って二度寝でもしよ。
そう思ってソファから立ち上がろうとしたその時――
「おはようございます」