僕だけが知ってる恋の記憶の欠片~若年性認知症の恋

痛ましい姿のまま倒れ、体の自由を失っていた陽子のもとへ、愛斗が必死に走ってきた。
視界の端に横たわる彼女の姿を認めた瞬間、心臓が凍りつくような感覚に襲われ、彼は慌てて駆け寄った。
「陽子! 陽子、しっかりしろ!」
そっと体を起こして呼びかけても、陽子は涙を流すばかりで、まともに反応もできず、ただ無力に体を震わせているだけだった。
そんな彼女の姿を目にした愛斗は、さらに衝撃を受けた。着ていた服は無残に破り取られ、肌が露わになった体は傷だらけで、下着さえも身に着けていない状態だったのだ。
彼は声を震わせながら何度も名前を呼んだが、陽子はうつろな瞳で虚空を見つめるばかりで、返事はなかった。絶望感が押し寄せ、愛斗は声を上げて泣きながら、すぐさま携帯で救急車を呼んだ
到着した救急隊員に、状況を言葉にするのも辛い思いで事情を説明すると、彼はそのまま救急車に同乗し、陽子と共に病院へと運ばれた。
病院に着いてからは、医師から状況について話を聞き、陽子はベッドに横になった後、すぐに緊急入院となった。
愛斗はすぐに薫へ電話をかけ、陽子が運ばれた病院の名前を伝え、入院することになった経緯を知らせた。連絡を受けた薫は急いで病院へ駆けつけ、愛斗から一部始終を聞くと、自分の無力さと怒りから声を上げて悔し泣きをした。後から駆けつけたマナも話を聞くやいなや、二人で肩を震わせ、涙に暮れた
時間が過ぎ、ようやく陽子が目を覚ました。愛斗と薫が側に寄り添い、優しく声をかけると、陽子は堰を切ったように泣き出し、混乱した様子で体を激しく暴れさせた。
愛斗は彼女を落ち着かせようと強く抱きしめたが、陽子は混乱のあまり、愛斗の体を何度も蹴りつけ、それでもなお暴れ続けた。彼は痛みを感じてもそれを気にすることなく、ただひたすらに抱きしめ続け、やがて陽子の荒れた呼吸が少しずつ静まっていった。
「……愛斗くん? 薫くん?」
「ああ、俺たちがここにいるよ」と優しく答えた。
涙ながらに、陽子は事件の全貌を語り始めた。
美波の指示のもと、二人の男たちに乱暴され、性的暴行を受けたこと——その言葉の一つ一つが、愛斗と薫の胸に深く突き刺さった。
話し終わると、愛斗はその場にくずれるようにして腰をつき、声を上げて泣き崩れた。
隣にいた薫もまた、怒りと悲しみに打ちひしがれ、同じように涙を流した。
愛斗はすぐに警察へ連絡し、これまでの経緯と陽子から聞いた事柄を詳しく説明した。
警察は調査を進めることを約束し、現場の確認と事情聴取を行った上で病院を去っていった。
それからも愛斗は陽子の側を片時も離れず、彼女がようやく眠りにつくのを見届けると、彼は無言で病室を後にした。
怒りが全身を駆け巡り、彼は足早に自分たちの住む団地へ戻り、真っ直ぐに美波のもとへと向かった。
「どうしてこんなことをした……!」
怒りを抑えきれず、愛斗は美波の胸ぐらを掴むと、渾身の力で彼女を殴りつけた。一発、また一発と、これまでの悲しみと怒りをすべて込めるようにして殴り続け、美波は抵抗することもできず、ただ泣き崩れるばかりだった。
さらに殴ろうと手を振り上げたその時、事件に関わった例の二人の男が現れた。
彼らを見た瞬間、愛斗の怒りは頂点に達し、今度は彼らへと向かっていった。
「陽子にあんなひどいことをしやがって……!」
彼は二人をそれぞれ殴り倒し、性的虐待まがいの蛮行を働いたことを一つ一つ責めながら、何度も何度も拳を振り下ろした。その瞳には、もはやかつての優しい愛斗の姿はなく、ただ大切な人を傷つけた者たちへの激しい怒りだけが燃えていた。
< 5 / 5 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop