転生令嬢は騎士からの愛に気付かない
 当たり前だ。ドレスなんて普通、ただの部下には贈らない。何か関係があるのではと邪推されてもおかしくはないだろう。
 だが、アシュリーがこれは仕事の話で、と説明する前に、ローウェルはアシュリーの背中を押して扉の方へ連れて行く。
 ──今日の上司はどこか変だ。わざと、口を滑らせているような気が。

「あと、やっぱり考えすぎは良くないね。さっきの話、受けた方が意外に幸せになるかもしれないよ。──それじゃあ仕事頑張って」

 アシュリーを扉の外へと追い出し、ローウェルはそう言って扉を閉めてしまった。
 直後、室内からヴィルヘルムの「どういうことだ!」という低い声が聞こえてきて、アシュリーは思わず肩を揺らしてしまう。続く声は潜められてしまい聞こえないが、これは絶対誤解されただろうなとアシュリーはため息を吐く。
 この流れだと、話をされた舞踏会の件も行かざるを得ないだろう。マイペースな上司の中ではアシュリーはすでに同伴者だ。
 豪華な食事と臨時収入に期待して、それを報酬にここは腹を括るしかない。結局婚約の話も解決せず、気が重くなる要因がひとつ増えただけだった。

「……仕事、戻ろう」

 このもやもやを発散できるような何かがあれば良かったが、さすがに慣れない賭け事にお金を使うのは非生産的だ。それに今は就業時間中で、だったら今から手を付ける仕事に没頭した方がよっぽど生産的だ。
 そう考えて、結果アシュリーは今日も仕事に逃げることにした。
 ローウェルに押し付けられた舞踏会の招待状を仕事着のポケットに押し込む。
 顔馴染みの研究員に図書館へ戻るから何かあれば図書館へ言付けて欲しいことを伝えて、アシュリーは研究室を後にした。
< 18 / 73 >

この作品をシェア

pagetop