転生令嬢は騎士からの愛に気付かない
《あ、そうそう、紹介しておくね。この子アシュリーちゃんって言って、図書館の方の、ボクの部下》
《アシュリー・マクブライドと、申します》

 彼女の瞳が、真っ直ぐにヴィルヘルムに向けられる。戸惑いがちに頬を染め、僅かな笑みを浮かべて見つめてくる彼女に、不快感は感じない。それどころか、動悸がして息が苦しくなる。
 ──ヴィルヘルムはこの瞬間に、自身がアシュリーの泣き顔に一目惚れをして、そして今、再び恋に落ちたのだと言うことに気付いた。

 だが、例え彼女を愛しいと思っていても、貴族の結婚は政略結婚が主だ。それは跡継ぎではないとは言え、貴族の家に生まれたヴィルヘルムも例外ではない。
 にも関わらず、少しでも接点を作ろうと立ち回っている自分がいた。
 そして彼女の色々な顔を知っていくうちに、想いはどんどん増えていく。
 けれど、想いを殺しながら過ごしていたある日のこと。ヴィルヘルムは彼女の元に、断れない程度の爵位の相手──それも酷く女癖の悪い──から後妻へ迎えたいという話が出ていると小耳に挟んだ。
 思わず真偽を確かめるため、偶然を装い、件の男と距離を詰める。そしてその話をしたとき、男が発した台詞を聞いて湧き上がったのは殺意だった。
 この結婚が為されてしまえば、彼女は不幸になってしまう。握り締めた手のひらに、爪が食い込む。
 だから彼女を不幸にしないために、どうすればいいのか。

 ──自分が、彼女に結婚を申し出ればいい。

 彼らしくない、短絡的な考えだった。同時に、それが彼女と一緒にいたいがための言い訳であることには、気付いていた。だが、彼女を後妻にしようとする男から「少し味の違う女を摘み食いしてみたくなった」と舌なめずりをしながら言われ、彼女への下品な妄想を聞かされれば、言い訳でもいいと、ヴィルヘルムは覚悟を決めた。
 幸いなことにヴィルヘルムは家を出る身ではあるが、騎士団に勤めているし身分の保障はある。その上悪い噂はない。もしものときはローウェルに頭を下げる覚悟で、ヴィルヘルムはマクブライド家にアシュリーとの求婚の話を申し出た。
 自身を選んで貰いたいと、彼女にとっての良い条件を付け加えて。
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