転生令嬢は騎士からの愛に気付かない
 今のアシュリーは装飾の少ない動きやすいドレスに白衣を羽織っているのではなく、実用性など無視した夜会用のドレスに身を包んでいた。首元の大きく開いたドレスは、どこか心許ない。
 公爵家の用意したものなのだから、間違いなく上級貴族御用達の店のものなのだろう。着心地は良い。良い生地すぎて、逆に落ち着かないぐらいだった。

 満足げな表情で見送る女性たちにお礼を伝え、ローウェルとの待ち合わせ場所である玄関まで年輩の女性が案内してくれる。
 そこにはすでに正装した上司の姿があった。いつもは無造作な髪をきちんとセットし、ピシッとした正装に身を包んだローウェルは普段のボサボサな髪と白衣のイメージからはほど遠い。
 こつん、とアシュリーの履いているパンプスのヒールが床を叩く。その音でローウェルがこちらを見て、そして驚いたように目を見開いた。

「ここまで変わるとは思わなかったけど、うん、よく似合ってるよ、アシュリーちゃん」

 よく見れば前髪が横に流されていて、普段は覆い隠されている琥珀色の瞳がきちんと見えるようになっていた。その姿につい見惚れて、言葉が詰まった。
 似合いすぎている。そもそもこの人は本当に、アシュリーの知っているローウェル・カルヴァートなのだろうか。
 そんな疑問すら浮かび始めたアシュリーの元にこつこつとブーツの音を響かせてローウェルが近付いてくる。

「じゃあ今夜は宜しくね。あ、ちなみに今からアシュリーちゃんは、カルヴァート家の遠縁の娘で、隣国から遊びに来たダンフォード侯爵家の娘、シェリー嬢って設定だから」
「……は? いやいやいやいや、館長ちょっと待っていただけます?!」

 突拍子のない言葉に、アシュリーの反応が遅れた。何故そう言う大事な設定を心構えをする時間を与える前に言ってくれないのか。
 だがこれは間違いなく自分の知っている上司だと再認識する。

「大丈夫だよ。アシュリーちゃん……じゃないね、シェリーならきっとできるってボクは信じてる」
「その根拠のない自信は一体どこから湧いてくるんですか、館長」
「あ、呼び方も《館長》だと気付かれる可能性があるから、そうだね……ボクのことはローウェルお兄様とでも呼んでよ」
「……帰っていいですか」
「だーめ。ほら、女性は度胸ってよく言うでしょ。潔く腹括って?」

 ──絶対に、この人は楽しんでいる。
 ひくりと頬の筋肉が引き吊った。
< 20 / 73 >

この作品をシェア

pagetop