転生令嬢は騎士からの愛に気付かない
だが、こんな状況まで作り上げられて、帰るという選択肢がもうないことはアシュリー自身が一番わかっていた。そもそも三日前、招待状を渡す相手を自身に定められた時点でアシュリーが逃げられないことは確定していたのだ。
それでも気持ちは抑えきれず、距離が縮まって視界に捉えることのできたローウェルの足の甲を偶然を装って思いっきり踏みつけてやった。端整な顔立ちが歪んだことに少しだけスカッとする。
そして申し訳なさそうな表情を作ると、普段のアシュリーとは正反対の令嬢を作り上げ、瞼を伏せた。
「も、申し訳ございません、ローウェルお兄様。実は足下に、大きな蜘蛛が見えたのです。もしも毒を持つ蜘蛛だったら恐ろしくて……」
蜘蛛なんていなかったし、目の前の上司なら嬉嬉としながら蜘蛛を生け捕りにして有毒採取に取り掛かろうとするだろう。前に教えられた情報によると多量だと死に至るが、少量であれば治療のための薬になる生態が多いらしい。
「蜘蛛、ね……うん、だったら仕方がないよね。女の子は虫が苦手だし。でも次からは踏み潰そうとする前に、ボクに声を掛けてくれる? 蜘蛛の毒は凄いんだよ。量を調節すれば傷を治す薬になる。もちろん多量だと、人を死に至らせる劇薬になるんだけど」
そっと手を差し出しながら、そう言ってくるローウェルにアシュリーは驚いたような顔で、「そうなのですか?」と問いかける。
本当に驚いているかのように、自然にそう見えるように表情を作って差し出された手にそっと指先を預ける。今ならば女優にでもなれそうだ。
ローウェルにエスコートされながら、アシュリーは公爵家の印の彫られた馬車に乗り込んだ。
向かいにローウェルが腰掛ける。まさか二人きりかとぎくりとしたが、ローウェルのあとに侍女がひとり乗ってきて、胸を撫で下ろした。
宜しくお願い致しますと挨拶をされて、こちらこそと返した言葉は上擦ってはいなかっただろうか。
──さっき思いっきり足踏んだからふたりきりは拙いなと思ってたから、ふたりじゃなくて良かった……!
アシュリーは端から襲われる心配はしていない。お互いに同士以上の感情を抱いてはいないからだ。彼女が恐ろしいのはただひとつ、先ほど足を踏んだことに対しての報復がどんなものであるのかと言うことだけだった。
それでも気持ちは抑えきれず、距離が縮まって視界に捉えることのできたローウェルの足の甲を偶然を装って思いっきり踏みつけてやった。端整な顔立ちが歪んだことに少しだけスカッとする。
そして申し訳なさそうな表情を作ると、普段のアシュリーとは正反対の令嬢を作り上げ、瞼を伏せた。
「も、申し訳ございません、ローウェルお兄様。実は足下に、大きな蜘蛛が見えたのです。もしも毒を持つ蜘蛛だったら恐ろしくて……」
蜘蛛なんていなかったし、目の前の上司なら嬉嬉としながら蜘蛛を生け捕りにして有毒採取に取り掛かろうとするだろう。前に教えられた情報によると多量だと死に至るが、少量であれば治療のための薬になる生態が多いらしい。
「蜘蛛、ね……うん、だったら仕方がないよね。女の子は虫が苦手だし。でも次からは踏み潰そうとする前に、ボクに声を掛けてくれる? 蜘蛛の毒は凄いんだよ。量を調節すれば傷を治す薬になる。もちろん多量だと、人を死に至らせる劇薬になるんだけど」
そっと手を差し出しながら、そう言ってくるローウェルにアシュリーは驚いたような顔で、「そうなのですか?」と問いかける。
本当に驚いているかのように、自然にそう見えるように表情を作って差し出された手にそっと指先を預ける。今ならば女優にでもなれそうだ。
ローウェルにエスコートされながら、アシュリーは公爵家の印の彫られた馬車に乗り込んだ。
向かいにローウェルが腰掛ける。まさか二人きりかとぎくりとしたが、ローウェルのあとに侍女がひとり乗ってきて、胸を撫で下ろした。
宜しくお願い致しますと挨拶をされて、こちらこそと返した言葉は上擦ってはいなかっただろうか。
──さっき思いっきり足踏んだからふたりきりは拙いなと思ってたから、ふたりじゃなくて良かった……!
アシュリーは端から襲われる心配はしていない。お互いに同士以上の感情を抱いてはいないからだ。彼女が恐ろしいのはただひとつ、先ほど足を踏んだことに対しての報復がどんなものであるのかと言うことだけだった。