転生令嬢は騎士からの愛に気付かない
2-2
 格好がまともになったからと言って、中身まで変わるとは限らない。
 蓋を開けたらいつも通りの上司の話をスイッチが入りきる前にそれとなく逸らし、そのたびに話を切り上げられた令嬢やその親から痛いばかりの視線を貰いながら、その視線には気づいていない振りをしてアシュリーは微笑む。
 一生分の愛想笑いを使っているような気さえするが、仕事だからと自分に言い聞かせる。給金を貰っていなければこんな仕事絶対に御免だ。
 隣で愛想良く──アシュリーからすれば胡散臭く──笑っている上司をそっと横目で見る。
 変人ではあるが、ローウェルが薬学の研究者として優秀であることには変わりない。そして王立図書館の館長を務めるだけあって知識もある。公爵家の生まれであるということもあり、彼と関わりを持ちたいと思う貴族は多かった。
 普段あまりこのような場に来ないことも人が途切れない要因なのだろう。何せ普段は研究室に籠もっていてほとんど出てこない。一応図書館の館長であるはずだが、表に立つ仕事は副館長が務めていて彼が表に出たことはなかったように思う。

 話を逸らして切り上げた傍から別の人に話しかけられ、延々とそれが続く。──つい親切心が働いて話を逸らしていたが、これは初っ端にきちんと変人ぶりを知って貰っていた方が良かった気がする。
 ため息を吐き出したくなる気持ちを抑えて愛想笑いを浮かべる。賑やかすぎるこのような場は、やはり自分には合わない。
 だが、アシュリーの限界がすでに近い理由はそれだけが原因ではなかった。
 行くよとそれだけ言ってローウェルに連れて行かれた先は普段は遠目でしか見ることのない国王夫婦の前だった。ローウェルに紹介され頭を下げるが、自分は今身分と名前を偽ってこの場にいることを思い出す。
 慌てたアシュリーに、ふたりは柔らかく微笑んだ。どうやら事情は伝えられていたようで、彼女が身分を偽ってこの場にいることは咎められなかった。それどころか、この場に来てからの彼女の奮闘ぶりを見ていたらしく、労いの言葉を貰ってしまう始末だ。
 うっかり別人を装っていることを忘れ、素が出そうになってしまった。ローウェルが助けてくれたお陰で挙動不審な仕草は目の前のふたり──王様と王妃様ぐらいにしか見られなかっただろうが、それが一番恥ずかしい。
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