転生令嬢は騎士からの愛に気付かない
 ふたりの前を辞して、そっと胸を撫で下ろす。そんなアシュリーの頭にぽん、と乗った手のひら。頭を上げると、ローウェルが笑みを浮かべていた。珍しくその笑みに胡散臭さはない。

「お疲れ様。よく気を使ってくれて、助かったよ」
「い、いえ……かん、お兄様こそ、先ほどは助けて下さってありがとうございました」
「君を守るのも、ボクの役目だからね。さて、あとは」
「──ローウェル」

 ローウェルの言葉を遮って響いてきた声。そちらに視線を向けると、ひとりの青年が近付いてきていた。
 彼の美しい金色の髪はシャンデリアの光に反射し、きらきらと輝いている。
 先ほどローウェルとアシュリーが挨拶をした国王夫妻の子であり、次期国王と言われている第一王子だ。確かアシュリーの記憶によれば、年は自身よりも三つほど上だったはずだ。
 だが何よりアシュリーの目を引いたのは彼の第一王子の後ろに付き従う、ヴィルヘルムの姿だった。
 アシュリーが仕事中の彼と会うことは少ない。最近は何かと図書館内で会う機会が多い気がするが、王族の──特に第一王子の──傍に控えていることが多いヴィルヘルムとは本来行動範囲が違うのだ。
 遣いのために図書館を出たときに偶然出会って世間話をすることはあるが、アシュリーが仕事中のヴィルヘルムの姿を見るのは王家が参加する行事のときぐらい。それも遠目からがほとんどで、こうして近くで彼の仕事をしている姿を見るのはほぼ初めてだった。
 加えて第一王子も見目が麗しく、ヴィルヘルムも端整な顔立ちをしている。第一王子の護衛も、誰も彼もが美形揃い。そのため彼らの姿はひどく目を引いた。先ほどから聞こえる黄色い歓声は第一王子一行と、そしてローウェルに向かっていた。

 それとなく一歩後ろに後ずさりながら、しっかりとヴィルヘルムの姿を目に焼き付ける。こんな至近距離で彼が仕事をしている姿を見られるのは今日を逃したらもうないかもしれない。
 しかし、どうやらあまりにも熱心に彼のことを見つめすぎていたらしい。周囲に視線を走らせていたヴィルヘルムの視線がアシュリーの方を向いた。深紫の瞳とばっちりぶつかる。
 視線が交差した瞬間、くちびるが何か言いたげに僅かに開かれ、彼は瞳を見開いた。
< 25 / 73 >

この作品をシェア

pagetop