転生令嬢は騎士からの愛に気付かない
 今は演技を続けられているが、絶対どこかで化けの皮が剥がれるのが目に見えていた。所詮は張りぼて。礼儀作法を学んではいても本当の意味での令嬢にアシュリーはなれない。
 なのにヴィルヘルムは何故か眉を顰めて、どこか不機嫌そうな表情になる。
 その表情の変化には気付いたが、一体どうすればいいのかわからなくてアシュリーは戸惑いの視線をローウェルに向けた──ら、その途端、ヴィルヘルムの眉間の皺もより深くなる。

「っふ、はは、いや……っ申し訳、ない。──シェリー嬢、私の警備のことは気にしないで欲しい。ジェラルドもいるし、いざとなればローウェルを盾にするから大丈夫だ」

 王太子は楽しげに笑みを浮かべながら、アシュリーを安心させるように言ってくれる。だが彼女にとってはそれは逆に不安でならなかった。
 ジェラルドと言うのは王太子付きの近衛騎士の名前だ。ヴィルヘルムに気を取られていたが、王太子の後ろにはピンクがかった金髪の、端整な顔立ちの青年がいた。公爵家の四男で、泣かされた令嬢は星の数ほどもいると噂の色男だ。
 視線が合うと自然にウィンクをされる。アシュリーにとって最も関わりたくない人種だったので、愛想笑いを浮かべて、そっと視線を外す。
 しかし王太子にここまで言われてしまい、アシュリーは断りの言葉のレパートリーを失った。最後の砦と言わんばかりに上司に助けを求めたが、端整な顔立ちを愉快そうに緩めたローウェルはアシュリーの希望をばっさりと切り捨てる。

「殿下もこう言ってくれてることだし、ヴィルヘルムなら万が一の心配もないからエスコートされておいで」

 ひくり、とアシュリーの頬の筋肉が引きつった。

「じゃあヴィルヘルム、ボクの可愛いシェリーちゃんのこと宜しくね」
「……ああ」
「やだなあ。そんな怖い顔しなくたって──」

 そう言って言葉を途切れさせたローウェルは、続きをヴィルヘルムの耳元でそっと囁く。何を言ったのかはアシュリーには聞き取れなかったが、ヴィルヘルムが目を見開いたことだけはわかった。

「ローウェル」

 王太子に呼ばれたローウェルはひらひらと手を振って踵を返して行ってしまった。
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