転生令嬢は騎士からの愛に気付かない
2-4
「……そのようなお言葉は、わたしには勿体ないです。もしかしたらヴィルヘルム様に気に入ってもらいたくて、そう思って貰えるような人間を演じているだけかもしれませんよ」
心臓の音が聞こえませんようにと願いながら、アシュリーは強がりを口にした。口にすると込み上がってくるものがあって、彼女はそれを必死に飲み込む。
──どうしてわたしはこんなに可愛いげがないんだろう
考えると、自然と自嘲するような笑みが浮かぶ。
ここで「ありがとうございます」と言って、この逞しい胸を借りれば、本当に可愛い令嬢なのだろう。けれどローウェルにもよく指摘される卑屈さが、それをすることを拒んだ。
十分夢なら見ることができた。別人に成りすましているとは言え、憧れの人に甘い言葉を掛けてもらえた。誤解してしまいそうなぐらいに熱い視線を注がれた。温かい腕の中に、抱き締めてもらえた。
これ以上望んだら、きっと罰が当たる。
「例え今のあなたが作られたもので、本当のあなたが別にいるとしても、」
静かな声が中庭に静かに響く。
するりと指先が、愛おしげにアシュリーの輪郭を撫でた。
「彼女に会ったとき、俺は同じことを思うだろう。可愛い、愛おしい、──離したくない、と」
見つめてくる瞳に艶めかしさと、どこか恐ろしさすら感じる。なのに心臓は一際大きく跳ねた。
瞳を細めて注がれる視線が、まるですべてを見通しているかのようにアシュリーには思えた。シェリー・ダンフォードではなく、アシュリー・マクブライドだとわかって、言っているのではないかと。
そんなことはないと、わかっている。
恋愛小説の企てられたシナリオのように、都合のいいことは起こらない。
こんなふうにヴィルヘルムが甘い囁きをくれるのも、アシュリーが夢見心地な気分になるのも、きっとふたりして、先ほどすれ違った男女の甘ったるい空気に飲まれてしまったから。
──だから、大胆な行動ができるのも、うっかり口が滑ってしまうのも、出来上がってしまった淫靡な空気の所為だ。
「ヴィル、ヘルムさま」
指先を伸ばして頬に触れると、ヴィルヘルムは僅かに肩を揺らした。けれど叩き落としたりはせず、アシュリーをじっと見つめている。
心臓の音が聞こえませんようにと願いながら、アシュリーは強がりを口にした。口にすると込み上がってくるものがあって、彼女はそれを必死に飲み込む。
──どうしてわたしはこんなに可愛いげがないんだろう
考えると、自然と自嘲するような笑みが浮かぶ。
ここで「ありがとうございます」と言って、この逞しい胸を借りれば、本当に可愛い令嬢なのだろう。けれどローウェルにもよく指摘される卑屈さが、それをすることを拒んだ。
十分夢なら見ることができた。別人に成りすましているとは言え、憧れの人に甘い言葉を掛けてもらえた。誤解してしまいそうなぐらいに熱い視線を注がれた。温かい腕の中に、抱き締めてもらえた。
これ以上望んだら、きっと罰が当たる。
「例え今のあなたが作られたもので、本当のあなたが別にいるとしても、」
静かな声が中庭に静かに響く。
するりと指先が、愛おしげにアシュリーの輪郭を撫でた。
「彼女に会ったとき、俺は同じことを思うだろう。可愛い、愛おしい、──離したくない、と」
見つめてくる瞳に艶めかしさと、どこか恐ろしさすら感じる。なのに心臓は一際大きく跳ねた。
瞳を細めて注がれる視線が、まるですべてを見通しているかのようにアシュリーには思えた。シェリー・ダンフォードではなく、アシュリー・マクブライドだとわかって、言っているのではないかと。
そんなことはないと、わかっている。
恋愛小説の企てられたシナリオのように、都合のいいことは起こらない。
こんなふうにヴィルヘルムが甘い囁きをくれるのも、アシュリーが夢見心地な気分になるのも、きっとふたりして、先ほどすれ違った男女の甘ったるい空気に飲まれてしまったから。
──だから、大胆な行動ができるのも、うっかり口が滑ってしまうのも、出来上がってしまった淫靡な空気の所為だ。
「ヴィル、ヘルムさま」
指先を伸ばして頬に触れると、ヴィルヘルムは僅かに肩を揺らした。けれど叩き落としたりはせず、アシュリーをじっと見つめている。