転生令嬢は騎士からの愛に気付かない
 当然嫌なことはあるし、口さがない噂話を耳にして思い出しては落ち込むことはあったけれど、職場環境に恵まれていたお陰でそれなりに充実していた。

 そうしてアシュリーは家を十六歳で出てからおよそ五年弱、休暇中の帰省を除いて実家には帰らず、司書として王立図書館に通っている。
 ここ数年は司書としてだけではなく、とある問題児の面倒を見ることも任されてしまったが、それはともかく。
 充実している今の環境を捨てて家に帰ってくるだなんて考えられなかった。

 冷静を必死に保ちながら、アシュリーはちらりと両親を窺う。
 ふたりは怪しげにアイコンタクトを取っていた。その様子に、アシュリーの背中に嫌な予感が走る。そして再びアシュリーを見据えた父がこう切り出した。

「アシュリー、お前には言っていなかったが、随分前から婚約の話が来ている」
「あら、おめでとう、スペンサー」
「姉上、私にではなく、あなたにです」

 渾身のボケを披露してみたが、誰も誤魔化されてはくれなかった。涼しげな顔立ちの美青年に成長した弟から、真顔で返事をされる。
 嫌な予感が的中したことにアシュリーは焦った。次こそは落としそうな気がして、手に持っていたティーカップをひとまずテーブルに置く。

「どなたかと、その方はお間違いになられているのではないですか、お父様」
「いや。間違いなく、王立図書館勤務のマクブライド男爵家長女、アシュリー・マクブライド宛だ」
「……後妻かしら。それとも愛人?」
「後妻でもなく、愛人でもない。お前を正妻にと、望まれている。結婚後も、負担にならない程度なら仕事を続けても良いと言ってくださっている。相手は由緒正しい家の方で、悪い噂も聞かない。正直言えば我が家には勿体ないぐらいの良縁だ」

 正直、アシュリーは父は一体何を言っているのだろうと首を傾げた。
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