転生令嬢は騎士からの愛に気付かない
 そんな優良株が男爵家の令嬢……とは名ばかりにありつつある娘に婚約を申し込んでいるなんて有り得ないと思わなかったのだろうか。とうとう呆けてしまったのかと心配になった。だが、父の目は相変わらず真剣だ。

「我が家よりも爵位が上の家からの申し出だ。有無を言わさず、お前を妻にと言ってくれれば良かった。だが、その方はお前の同意が欲しいと言った。もし同意を得られないのなら、得られるまで努力すると」
「は」

 父の言っていることが理解できない。言語自体は理解できているし、意味もわかっている。だが、こちらにばかり有利な話だなんてどう考えてもおかしすぎる。
 相手の家は、アシュリーの家よりも爵位は上だと言う。なのにアシュリーの同意が得られなければ得られるように頑張るとは、訳がわからない。
 相手の家に父が騙されているのか、それとも自分が今、騙されそうになっているのか。考えてもアシュリーにはわからなかった。
 考えれば考えるほど気持ちは重くなっていくし、頭も痛くなってきた。
 これ以上考えても頭痛が酷くなるだけで堂々巡りだ。

「わかりました。ですが突然のことで整理がしきれていなくて……そのお話、少し待って頂けますか」

 そう言ったアシュリーの表情が余程色をなくしていたのだろう。父は構わないと言って、侍女に部屋まで送るように言った。
 けれどひとりになりたいからと、アシュリーはその申し出を断って扉へと向かう。

「アシュリー、机の上に相手の方の肖像画を置いておいたの。気分が良くなったら見てみてね」

 気遣いながらも付け加えられた母のその言葉に、アシュリーの心はさらに重くなる。ありがとうございます、と辛うじてお礼を口にして、ダイニングを出た。
 ダイニングを出て階段を上り、通路を進んだ一番奥がアシュリーの部屋だ。
 掃除はされているものの、屋敷を出たときと変わっていない自室のベッドに腰掛けて、彼女は重苦しく大きなため息を吐いた。
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