【執着兄弟の溺愛シリーズ】エリート救急医は契約結婚した妻を極上の執着愛で囲い込む
第一章 まさかの契約結婚
日差しの暖かな五月の水曜日の朝。
「いってきま~す」
「若菜、待って! お弁当忘れてるよ!」
玄関先で革靴を履いて出て行こうとする妹の若菜を慌てて呼び止める。
紺色のブレザーに緑色のチェックのスカート姿の若菜は肩まであるストレートの黒髪を揺らしながら振り返った。
「ごめん、お姉ちゃん。また忘れるところだったよ」
私の手の中にあるピンク色のお弁当バッグに気付いて、若菜はペロッと舌を出す。
「若菜はうっかり屋さんなんだから。車に気を付けてね。ちゃんと右左確認するんだよ?」
「もう子供じゃないんだからそんなに心配しなくても大丈夫だって。お弁当ありがとっ! いってきます!」
姉の私、河合小春の心配をよそに若菜は陽気に手を振って玄関を飛び出して行った。
「高校生はまだ子供だよ」
お調子者の若菜にやれやれと溜息混じりに微笑む。
私は築三十年のお世辞にも新しいとはいえないアパートの一階で妹の若菜、それに八十二歳の高齢の祖母と三人で暮らしている。
父は八年前に他界し、五年前に後を追うように母が病気で亡くなった。そのタイミングで妹の若菜とともに祖母と暮らし始めた。
当時、私は二十一歳で専門学校を卒業し、仕事を始めたばかりだった。
母のお葬式の時、小六だった若菜は目に涙を浮かべながらも必死に涙を堪え、拳をきつく握りしめていた。
幼くして両親を相次いで亡くして悲しみに暮れてもおかしくないのにと周りの人たちが心配する中、若菜は気丈に振る舞っていた。
けれど、お葬式が終わり『若菜、大丈夫?』と声を掛けると『お姉ちゃんはいなくならないよね……?』と私にしがみついてボロボロと涙を流した。
小さな体は小刻みに震え、今まで必死になって耐えていたことが伺えた。
『大丈夫。お姉ちゃんはいなくなったりしないから。若菜とずっと一緒にいるよ』
ここで私が泣くわけにはいかないと私は若菜の体をギュッと抱きしめ、奥歯を噛み締めて励ますように若菜の背中を擦った。
そんな妹の姿を目の当たりにした私は、姉として一生妹の若菜を守っていくと決めたのだった。
私はキッチンの隣のダイニングで座椅子に座る祖母に近付いていき、声をかけた。
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