【執着兄弟の溺愛シリーズ】エリート救急医は契約結婚した妻を極上の執着愛で囲い込む
武尊さんはすぐにお風呂を沸かし、『風邪をひいたら大変だ。ゆっくり入ってくるといい』と声を掛けてくれた。
 お風呂を出ると、リビングのソファには武尊さんの姿があった。
 私と目が合うと、武尊さんは「小春」と私を呼んだ。
「あ……お風呂、先にいただきました。武尊さんもどうぞ」
 彼の前まで歩み寄ってそう告げる。
「俺は後で大丈夫だ。少し話そう」
武尊さんは自分の隣をトントンッと手のひらで叩いた。
 私は彼の隣に座り小さく息を吐き出した後、改めてネックレスの件を謝った。
「武尊さん迷惑をかけてしまって本当にごめんなさい。私が素直に失くしたと話していればこんな風に大事になることはなかったのに……」
 ネックレスを失くすという失態を犯しただけではなく、山田さんの件でも迷惑をかけてしまった。
 すると、武尊さんは「逆だ」と神妙な面持ちで呟いた。
「あの時、小春が暗い顔をしていたのに気付いていたのにひとりで行かせた俺が悪い」
「そんな……武尊さんのせいじゃありません」
「怖い思いをさせたな。ごめん、俺のせいで……」
 うな垂れる武尊さん。
 『ごめん、俺のせいで……』という武尊さんの台詞に頭の中でずっと晴れずにいた靄が晴れていくような感覚に陥る。
 事故以来、一部の記憶には濃い霧がかかったようにぼんやりとしていた。
 あの日、私に駆け寄って救ってくれた人が武尊さんだということは分かった。
 でも、もっと他に……。とっても大切なことをまだ思い出せていない気がする。
 私は、事故に遭う前から武尊さんを知っていたような気がするのだ。
 でも、一体どこで……? 
 その時、床にある黒い何かに目がいった。
 それが一瞬、丸まって眠る猫に見えた。
よく見るとそれは先程武尊さんが着ていた黒いジャケットだった。彼が服を床に脱ぎ捨てるのは珍しい。
家に帰って来てから雨に濡れた私を一刻も早く風呂へ入れようと必死だったのだろう。
「猫……?」
 私は思わず呟いた。
頭の中に白黒の猫が浮かぶ。
「あっ……」
次の瞬間、まるで最後のパズルのピースがかちりとはまったみたいに、過去の記憶が走馬灯のように一気に蘇った。
 事故の前、私は休みの度に近くの公園へと足を向けていた。その目的は、可愛い『大福』という猫と男性に会うためだ。
 ひょんなことから出会い、それからは彼と会うのを楽しみに時間さえあれば公園へ行き彼がやってくるのを待った。
仕事の話をする時の彼は輝いていた。救急医として患者の命を救おうと尽力するその姿に私は感銘を受け、彼を尊敬すると同時にひとりの男性として惹かれていった。 
『来週の日曜日、食事に行かないか? 君に伝えたいことがある』と誘ってくれたのだ。
 私は男性のその誘いを喜んで受け入れた。そして、その日に私は事故に……。
 あの日、私が食事の約束をしていたのは……武尊さんだ。
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