ゆびきりげんまん


葵唯と別れた後駅内から出て、手に持っている紙袋を改めて見る。

嬉しさにふんふんと鼻歌を歌いながら、鞄から真新しい財布を取り出して自動販売機の前に立った。



小銭を取り出した瞬間に、チャリンッと1枚落としてしまい拾い上げようとした時だった。


私より先に、別の誰かの手が伸びたのは。



「……え、」



そこに立っていたのは、真っ黒なスーツに身を包んだすっかり忘れていたあの男の人だった。



「久しぶりだね、つむ」



彼が差し出した手のひらには50円玉が1枚乗っていた。

戸惑いながらもお礼を言うとふわりと笑ったのが分かる。



「やっぱり、つむだよね?」

「……あの、私ほんとに分からなくて。何処かでお会いしましたっけ?」

「あるよ」



街灯と微かに伸びた駅の明かりが私達を照らす。
相変わらず黒いスーツを身にまとい、甘い香水の匂いを漂わせたホストの風貌をしている彼。



「僕はつむの事、ずっと探してた」



誰かに“つむ”と呼ばれた記憶はない。
あだ名で呼ばれることはたまにあるけど、皆“むぎ”や“むぎちゃん”だった。


でもこの人は執拗いくらいに私の事をそう呼ぶ。


絶対に、確実に私の事を“つむ”だと。


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