私を振った同級生ドクターの距離が近すぎます!〜もしかして、私のこと好きですか〜

10 カンファレンスの宣戦布告



月に一度の病棟カンファレンス。
医師と看護師が勢揃いし、入院患者の今後を話し合う緊迫した場だ。
森さんからの指名で、私は書記を担当することになった。

鳴海くんが席に着くと、室内の空気が一段と引き締まる。
進行は市川主任。スムーズに終わるはず……そう思っていた矢先だった。

「この場を借りて、一つよろしいでしょうか」
市川主任が静かに、だが鋭く手を挙げた。
「三宮先生。麻薬鎮痛剤は事前にオーダーしてください。425号室の患者さん、処方がなくて疼痛コントロールができず、現場が困っています」

「フラッシュで使うから減りが読めないんだ。残量を見て声をかけてくれればいいだろ」
三宮先生の無責任な返しに、私の指がキーボードの上で止まった。

「処方は医師の仕事です!」
主任が食い下がるが、三宮先生は鼻で笑う。
「なら、その都度俺に言えばいい。困るのは看護師なんだから」

その一言で、私の頭に血が上った。

「三宮先生! 間違っています!」

椅子を蹴るような勢いで立ち上がっていた。全員の視線が私に突き刺さる。

「困るのは患者さんです。痛みに苦しむのは患者であって、看護師じゃありません!」

静まり返る会議室。三宮先生は気まずそうに視線を泳がせた。
「わかってるよ……。基本を見失ってるみたいに言うな」

「藤川さんの指摘は正論です。反論の余地はありませんね」

低い、けれど会場の隅々まで通る声。援護したのは、鳴海くんだった。
「今後は朝の回診で残量を確認しましょう」
「鳴海、お前はどっちの味方なんだよ」
ふてくされる三宮先生に、鳴海くんは微かに口角を上げた。

「すみません。藤川さんの情熱は、昔からよく知っているので」

(――っ!!)

心臓が跳ね上がる。その一言で、場の空気が一瞬にして「熱」を帯びた。
「二人って……どういう関係なの?」
真っ先に切り込んできたのは、やはり森さんだった。刃物のような目が私を射抜く。

「付き合いがあって、よく知っている仲です」
鳴海くんの動じない答えに、私は慌てて補足した。

「ち、中学の同級生なんです! 部活も一緒で、ただの知り合いで……!」

勘違いをされないように、私は慌てて補足する。
皆が納得する中、森さんだけは違った。刃物のような目でこちらを見ている。
その視線に刺されるように痛かった。



カンファ終了後。議事録を仕上げる私の前に、大きな影が落ちた。
見上げると、森さんが腕を組んで立っていた。

「藤川さん、鳴海先生と付き合ってないのよね?」
「はい」
「昔は?」
「いいえ。ただの同級生です」

(――失恋した、とは言えない)

「そう。ならよかった。鳴海先生は私がもらうから。覚えておいて」
それだけ言い残し、彼女は颯爽と去っていった。あの自信が、ほんの少しだけ羨ましかった。

「終わった?」
背後から声をかけられ、肩が跳ねる。鳴海くんが隣に座り、冷たい缶コーヒーを差し出してきた。
「鳴海くん……さっきの言い方、みんなに誤解されるよ」
「藤川が意識しすぎ。事実だろ?」

無自覚な言葉に、胸の奥がチリりと痛む。
「藤川がここに来てくれてよかった。三宮先生、少しは変わるかもしれない。病棟にとっていいことだ」
彼は眩しすぎる笑顔で私を見た。
「藤川の力って、すごいな。ありがとう」

不意打ちの称賛に、コーヒーを吹き出しそうになる。
「大丈夫?」
「へ、平気っ!」

そんな風に笑うから、私はまた、勘違いしそうになる。
忘れようとしたはずの想いが、何度も、何度も、心の中で産声を上げる。

(……あなたのこと、また、好きになってしまう)
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