私を振った同級生ドクターの距離が近すぎます!〜もしかして、私のこと好きですか〜
16 十三年目のタイムカプセル
※田島我聞 視点
「鳴海先生と萌奈って付き合ってないの?」
亜里沙は俺に疑問をなげかけて、ドーナツにかぶりついた。
「なんだよいきなり」
俺は寝起きのパジャマのままリビングに入っていったら、亜里沙が振り向きざまにそう訊ねてきた。
「だってさ、中学の時はずーっと一緒に帰ってたじゃん。お互いを見る目がハートだったもんね」
TVでは流行の恋愛ドラマが流れていた。それをみて、思い出したらしい。
「そうだったか? それより、亜里沙。お前、最近食いすぎじゃねーか?」
(妊婦のくせにドーナッツ食いすぎだろう)
「今月出産でしょう。赤ちゃんが下におりてきて胃の圧迫がとれたら、たくさん食べられちゃって」
俺は呆れてソファーにドスンと腰を掛けた。
「太ると出産が大変になるぞ。気を付けろよ」
「で、あの二人って付き合ってるの?」
亜里沙はしつこい。
「付き合ってねーよ。中学を卒業してから、あいつらが一緒にいるの一回もみたことないし」
「ふーんそうなんだ。美男美女カップルなのにねー。もったいない」
俺にとって蒼真と萌奈はあまりにも近い存在すぎて、二人の関係に興味などない。もう兄妹みたいな奴らだしな。そして俺はくだらないドラマから、チャンネルをザッピングした。そしてあるバラエティー番組で手が止まった。
「はーい。今日の”なんでもやります課”はとある小学校にきていまーす。今日の依頼者は、ここの卒業生の金森さん!」
タレントが元気よく紹介しだした。
「こんにちは」
「金森さんのご依頼はなんですか?」
「僕はここを卒業する時にタイムカプセルを埋めたんです。二十歳になったら堀りだす予定でしたが、新しく遊具が建ってしまい目印がわからなくなってしまって。今日は一緒に探すのを手伝ってほしいです」
(タイムカプセル…?)
俺の頭にも同じくタイプカプセルが浮かんだ。そう、中学卒業の日に、思い出を残そうと思って。
「あー懐かしいな。俺も埋めたわ」
「お兄ちゃんも? 何を埋めたの」
「手紙だよ。未来の自分へってお題でみんなに書いてもらたんだ。そういえば一人だけボタンを入れたやつがいたな」
「誰?」
「蒼真だよ。なんであいつだけボタンを入れたんだっけ?」
俺はソファーに頭を乗せ天井見上げて、思い出そうと頑張った。
「でたー、お兄ちゃんのすぐ忘れる癖」
亜里沙が半目でバカにしてくる。
「えーっと……確かあの日、タイムカプセルを持って昇降口にいたんだ。先生が埋めてもいい場所を探してくれて。で、その時、蒼真が来てよ、体育館裏に誰かを呼び出してくれって頼まれた」
「それ、告白じゃん。ってことは鳴海先生は好きな人がいたってこと?」
亜里沙が驚きで目を開きながらそう訊ねた。
「で、その相手は誰だったのよ?」
興味津々で亜里沙が近づいてくる。俺はウザいなって体をひいた。しかし、同時に俺の頭の中では、あの日の出来事が鮮明に再生され始めていた。
そして俺はあることに気が付いた。
それはたぶん、ものすごいミス……
思い出さないほうが幸せだったミス……
今の蒼真と萌奈の関係が親密でない理由はこれかもしれない。
いや、かもしれないじゃない。たぶん“俺のせい”だ。
頭の中で繋がったとき、血が引いてゆくのがわかった。ドッキンドッキン、心臓が暴れ出してくる。
「お兄ちゃん、どうしたの? 真っ青だよ?」
「どうしよう…。俺、とんでもないことをしてしまったかもしれん」
「どうしたのよ?」
「俺…本当に蒼真と萌奈に口を縫い付けられるかもしれん…」
俺は頭を抱えた。
「な、なにがあったのよっ話してよ!」
十三年前の卒業式の日の出来事、俺の脳内再生された出来事を亜里沙に話すことにした。
――いや、正確には思い出してしまった罪を告白するしかなかった。
♢
十三年前の卒業式の日の話。
ここは中学校の昇降口。俺はタイムカプセルを埋めようと、先生から許可が下りるのを待っていた。
「我聞っ」
蒼真の焦った声が聞こえて俺は振り返った。
「なんだよ蒼真、そのかっこうは?」
蒼真の制服はなぜか乱れていて、ほとんどのボタンがなくなっていた。かろうじて第二ボタンだけが残っていた。
「蒼真、女子にボタンを奪われたんだな。ヒーローマンガの主人公じゃん」
「どうでもいいだろうっ」
ムスっとした顔もイケメンな蒼真だから、まあ、仕方がない。
「我聞、お願いがあるんだ。これは信頼しているお前にしか頼めない」
「なんだよ」
蒼真が一瞬、頬を染めたと思った。ごくんと生唾を飲んでから俺に小声でこういった。
「藤川に…体育館裏に来てほしいと伝えてくれないか」
「部活の用事か?」
「いや……そうじゃない……」
蒼真がめずらしくしおらしく恥じらった。
(あ、告るのか?)
俺の中ではこんな軽いノリだった。だから「わかったー」といつものように調子よく親指を立てて返事をしてしまった。前言通り、俺にとって二人は兄妹で、恋愛事情なんぞ興味もなかった。だから特段、驚きもしなかったんだ。
つまり気にも留めていなかった。それより抱きかかえたタイムカプセルに気を取られていて…。俺は夢中になるものがあると他の用事を忘れる癖がある。
それがこの日でてしまった。
「我聞!」
蒼真が去ってしばらくして、今度は萌奈に声をかけられた。俺は待っている先生が来ないものだから、そちらに気も揉んでいて蒼真の頼み事はすでに頭に残っていなかった。
「鳴海くん知らない? 部活のみんなで記念撮影するのよ」
浮かれ気味の萌奈のことも、どうでもいいって気持ちで対応しちゃってさ。
「蒼真なら体育館裏だよ。好きな子に告るんだって」
その瞬間、萌奈の顔が一瞬だけ止まったのを――俺は見逃した。
あの時の萌奈の目は、驚きじゃない。
“期待していたものが崩れる音”だった。
唯一、俺の頭に残ってる単語を口にした。しかし、俺は一番大事な「萌奈に」を伝え忘れているじゃないか!!!
その時の俺は気が付かない。だって、廊下の先からようやく先生が歩いてくるのが見えたから。
「先生ーっ。どこになら埋めてもいいですかー?」
タイムカプセルのことで頭がいっぱいで、二人のことは思い出すこともなかった。俺は右肩にスコップ、左脇にタイムカプセルを抱えて歩いた。その時、ものすごく暗い蒼真と会った。
今思えば、蒼真は来るはずもない萌奈を待っていた。
その“待ちぼうけの顔”を見ても、俺は何も聞かなかった。
だから”自分はフラれた”と勘違いして蒼真は暗かったんだ。気分が高揚している俺は蒼真の暗い顔に突っ込むことはなかった。
「蒼真! コレ、一緒に埋めようぜっ!」
今ならわかる。あれは、全部終わった後の声だった。
「あ…うん。その中、まだ入る?」
蒼真が力なくそう訊ねた。
「入るよ!」
「じゃあ、コレも入れておいて…」
蒼真の掌にはボタンが一つコロンと乗っていた。これは萌奈にあげようと残していた第二ボタンだったんだろう。当時の俺はそれに気が付かず、
「そんな小さいボタン、余裕で入るぜ!」
ってアホなガキだった。
ああ…俺はなんてことをしてしまったんだっ!
無意識とはいえ、あの頃の二人の仲を引き裂いてしまっていたんだ!!
(いや違う、気づかずに踏みつぶしたんだ。しかも笑いながら。最悪だ)
俺の話を聞いた亜里沙は驚愕の表情で口を手で覆っていた。
「…それは…口を縫われても仕方ないわ…」
「だろ? しかも麻酔なしでだ。俺は文句もいえねぇ…」
自分のアホさに呆れて、肩ががくんと落ちた。
「お兄ちゃん、あの二人はお互いに勘違いをしたままってことだよね?」
「…そういうことだな」
「じゃあ、もう一度やり直してもらおうよ」
「どうやって?」
俺は亜里沙を見た。
「タイムカプセル、埋めたままなんでしょう?」
「お、おう…」
「だったら掘り返そうよ。13年前のズレた告白を、全部もう一回やり直すの」
亜里沙の目が、異様な熱を持っていた。
「みんなで小学校に集合! その日の続きをするのよ!! まるでドラマのような展開! ゾクゾクするわっ」
目をランランに輝かせた亜里沙のテンションが理解できず、俺は押されるがままだった。