君と終わった街で
『じゃあ適当に探しとく』

送る。

少し間が空いて。

『任せた』

その四文字を見て、洸太はふっと笑った。

昔からそうだった。

文姫は、自分で決めるのが苦手だった。

どこ行く、と聞いても、

“なんでもいい”

ばかりで。

結局、いつも洸太が決めていた。

そんな小さなことまで、ちゃんと思い出せる自分が少し怖い。

マンションへ向かう道を歩きながら、洸太は夜空を見上げる。

東京の空は暗い。

星なんてほとんど見えない。

それでも今日は、不思議なくらい気分が軽かった。

まるで、止まっていた時間の続きを、少しずつ取り戻しているみたいだった。

部屋に帰ってからも、洸太はなんとなく落ち着かなかった。

冷蔵庫を開けて、水を飲む。

テレビをつける。

でも内容はほとんど頭に入ってこない。

ソファに座ったまま、結局またスマホを手に取る。

文姫とのトーク画面。

少し前まで空っぽだった場所に、会話が増えている。

それだけのことが、まだ不思議だった。

洸太は親指で画面をゆっくりスクロールする。

『やった』

『任せた』

たった短い文章ばかりなのに、文姫の声が自然に頭の中で再生される。

高校の頃と変わらない。

少し気だるそうで。

でも、ちゃんと笑ってる感じ。

その時、不意にスマホが震えた。

反射みたいに画面を見る。

文姫だった。

『ねえ』

『土曜なら空いてる?』

洸太は少しだけ目を細める。

土曜日。

何も予定はない。

いつも通りなら、昼過ぎまで寝て、適当にコンビニへ行って、動画でも見ながら終わる休日だ。

でも今週は違う。

土曜、という文字だけで、急に一週間の形が変わった気がした。

『空いてる』

送る。

数秒後。

『よかった』

『仕事頑張れる』

その一文に、洸太は小さく笑った。

高校の頃から、文姫はこういうことをさらっと言う。

深い意味なんてない顔で。

でも、言われた側はずっと覚えてしまう。

洸太はスマホを置いて、天井を見上げた。

静かな部屋だった。

冷蔵庫のモーター音だけが小さく響いている。

東京に出てきてから、何年もこんな生活をしていた。

誰にも期待しないで。

ただ仕事して。

なんとなく毎日を終わらせて。

それで十分だと思っていた。

……いや。

思い込もうとしていただけなのかもしれない。
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