君と終わった街で
第3章 特別な友達

朝、目が覚めた瞬間。

文姫は数秒だけ、ぼんやり天井を見つめていた。

白い天井。

薄いグレーのカーテン。

窓の外を走る車の音。

東京の朝だった。

枕元に置いていたスマホを見る。

時刻は七時過ぎ。

画面には、昨夜の通話履歴が残っている。

『洸太』

その名前を見た瞬間。

胸の奥が、少しだけ静かに揺れた。

昨日。

洸太と電話した。

気づけば深夜の二時半まで。

高校の頃みたいに、意味のない話をずっとしていた。

眠くなるまで。

切るのが少し惜しくなるくらいに。

文姫はベッドの上で小さく息を吐く。

そして、そのまま一昨日のことを思い出す。

雨上がりの交差点。

濡れたアスファルト。

向かい側の人混み。

その中にいた、洸太。

最初、信じられなかった。

でも、歩き方で分かった。

十年会っていなかったのに。

そんなところで気づいてしまった自分に、少し驚いた。

文姫はゆっくり布団から起き上がる。

フローリングの床が少し冷たい。

一人暮らしの部屋は静かだった。

広くはない。

でも今の自分には、それくらいがちょうどいい。

キッチンへ向かい、コーヒーメーカーのスイッチを入れる。

その間も、頭のどこかでずっと洸太の声が残っていた。

『今の洸太、私は好きだよ』

昨夜、自分で口にした言葉を思い出して。

文姫は思わず顔をしかめる。

「……何言ってんだろ、私」

小さく呟く。

好き。

たしかに、そう言った。

でも、高校の頃。

自分は洸太を何度も振っている。

恋愛としては見れない、と。

近すぎて、友達みたいだったから。

それは嘘じゃなかった。

洸太は大事だった。

誰より一緒にいたし、安心できた。

でも、“恋愛”とは違った。

少なくとも、あの頃の自分はそう思っていた。

なのに今。

再会して、たった二日。

どうしてあんな言葉が自然に出たんだろう。

コーヒーの香りが、静かな部屋に広がっていく。

文姫はマグカップを持ったまま、窓際へ歩く。
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