君と終わった街で
文姫は俯いたまま、小さく息を吐く。

熱のせいなのか。

安心したせいなのか。

急に涙が出そうになる。

洸太はそんな文姫を見ながら、少し困ったように笑った。

「ていうか」

小さく頭を掻く。

「昨日、なんであんな逃げるみたいに帰ったのか分かんなくて」

文姫の肩が小さく揺れる。

洸太は続ける。

「腕掴んだ時、めちゃくちゃ嫌そうな顔したし」

その声は冗談っぽく笑おうとしていたけど、少しだけ傷ついているのが分かった。

文姫は唇を噛む。

違う。

嫌だったわけじゃない。

むしろ逆だった。

「……ごめん」

また小さく謝る。

「反射で……」

そこまで言って、言葉が止まる。

昔のことを、どこまで話すべきなのか分からなかった。

でも洸太は、それ以上聞こうとしなかった。

ただ静かに、

「そっか」

とだけ言う。

その優しさが、逆に苦しい。

文姫は布団を少し握りながら、小さく笑った。

「ほんと最悪」

「なにが?」

「私」

洸太が眉を寄せる。

文姫は視線を逸らしたまま呟く。

「洸太に彼女いるって勝手に勘違いして」

「勝手に傷ついて」

「勝手に逃げて」

言いながら、自分でも情けなくなる。

でも次の瞬間。

洸太が小さく笑った。

「……いや、ちょっと嬉しかった」

文姫が顔を上げる。

洸太は少し照れたみたいに視線を逸らした。

「文姫があんなになるくらい、俺のこと気にしてくれてたんだって思ったら」

その言葉に。

文姫の心臓が、大きく鳴る。

熱とは別の意味で、顔が熱くなる。

洸太は苦笑しながら続ける。

「もちろん昨日はマジで焦ったけど」

「でも正直、ちょっとだけ嬉しかった」

部屋が静かになる。

雨音だけが、遠くで小さく響いている。

文姫は何も言えなかった。

もう誤魔化せないと思った。

安心したことも。

苦しかったことも。

嫉妬したことも。

全部。

理由は、一つしかない。
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