君と終わった街で
文姫は視線を落としたまま、布団をぎゅっと握る。

心臓がうるさい。

熱のせいだけじゃない。

洸太の言葉が、胸の奥へずっと残っている。

――嬉しかった。

そんなふうに言われると思っていなかった。

普通なら面倒だと思われてもおかしくない。

勝手に勘違いして。

勝手に逃げて。

しかも倒れて。

迷惑ばかりかけている。

それなのに。

洸太は少し困ったみたいに笑いながら、文姫を見ていた。

その視線が優しくて、苦しくなる。

「……なんで」

文姫は小さく呟く。

洸太が首を傾げた。

文姫はゆっくり顔を上げる。

「なんでそんな嬉しそうなの」

洸太は少しだけ目を丸くして、それから小さく笑った。

「だって」

その声は、驚くくらい自然だった。

「まだ可能性あるのかなって思うだろ」

空気が止まる。

文姫の呼吸が浅くなる。

洸太は視線を逸らさない。

昔みたいな勢いじゃなかった。

もっと静かで。

でも逃げていない目だった。

「高校の時さ」

洸太が静かに言う。

「文姫に振られたあと、俺かなり引きずってたんだよ」

文姫の胸が小さく痛む。

知っていた。

でも、ちゃんと聞くのは初めてだった。

「でも再会して」

洸太は少し笑う。

「また普通に話せるだけで十分って思おうとしてた」

その言葉が、やけに胸へ刺さる。

洸太はきっと、本当にそう思おうとしていた。

無理に距離を縮めようとしなかったのも。

優しくて自然だったのも。

全部、文姫を困らせないためだったんだと分かる。

でも。

「昨日の文姫見たら」

洸太は少しだけ困ったみたいに笑った。

「期待したくなる」

文姫は何も言えなかった。

胸がいっぱいだった。

苦しくて。

でも嬉しくて。

どうしようもなく、泣きそうだった。

洸太はそんな文姫を見て、少しだけ表情を柔らかくする。

「……まあ、今熱で弱ってる時に言う話じゃないか」

冗談っぽく言って立ち上がる。

「水持ってくる」

そう言ってキッチンへ向かう背中を見ながら。

文姫はゆっくり目を閉じた。

もう無理だと思った。

自分はきっと。

ずっと前から。

洸太を好きになっていた。
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