君と終わった街で
その事実を認めた瞬間。

胸の奥が、じんわり熱くなる。

苦しいのに。

どこか安心している自分もいた。

洸太がキッチンから戻ってくる。

「はい」

ペットボトルの水と、薬を差し出される。

文姫は身体を起こそうとして、少しふらついた。

その瞬間、洸太が咄嗟に背中へ手を回す。

「大丈夫か?」

近い。

距離が近すぎて、文姫の心臓が跳ねる。

洸太は気づいていないみたいに、自然な動作で支えている。

文姫は小さく頷いた。

「……ありがと」

熱で頭がぼんやりしているせいか、声が少し弱い。

洸太は文姫が薬を飲むのを見届けてから、ベッドの横へ座る。

部屋は静かだった。

雨音も、さっきより小さくなっている。

文姫はペットボトルを握ったまま、小さく息を吐く。

「洸太ってさ」

「ん?」

「昔よりズルい」

洸太が少し笑う。

「なにそれ」

文姫は視線を逸らしたまま呟く。

「昔はもっと、分かりやすかった」

好きって感情を、隠せていなかった。

真っ直ぐで。

不器用で。

だから自分は、怖かった。

でも今の洸太は違う。

優しくて。

落ち着いていて。

ちゃんと距離をくれる。

なのに時々、どうしようもなく心を揺らしてくる。

洸太は少し考えるみたいに黙ってから、

「……まあ、大人になったし?」

と笑う。

その笑い方が、少し照れていて。

文姫は胸の奥がまた熱くなる。

しばらく沈黙が落ちる。

でも、不思議と苦しくなかった。

むしろ心地よかった。

洸太がそばにいる。

それだけで安心する。

その時。

洸太がふと静かな声で言った。

「昨日さ」

文姫が顔を上げる。

洸太は少しだけ視線を落としていた。

「文姫が雨の中走ってくの見て、マジで焦った」

その声が、思っていたよりずっと苦しそうで。

文姫の胸が締め付けられる。

「追いかけようと思ったけど」

洸太は苦笑する。

「また触ったら、もっと嫌がられる気がして」

文姫は息を呑む。

違う。

そんなつもりじゃなかった。

でも、自分の反応が洸太を傷つけたんだと、今さら分かる。

文姫は唇を噛む。

それから小さく、洸太の服の袖を掴んだ。

洸太が目を丸くする。

文姫は俯いたまま、震える声で言う。

「……嫌じゃない」

その一言を口にするだけで、胸がいっぱいだった
< 63 / 80 >

この作品をシェア

pagetop