君と終わった街で
その言葉が、静かなカフェの中へ落ちる。
文姫は何も言えなかった。
桃花の気持ちが痛いほど伝わってくる。
軽い恋じゃない。
四年間。
ずっと積み重ねてきた想いだ。
その事実が、胸の奥へ重く沈む。
文姫はカップへ視線を落とした。
アイスコーヒーの氷が、小さく音を立てる。
本当に自分が洸太を好きだと言っていいのか、分からなくなっていた。
十年前。
あんなに真っ直ぐ好きでいてくれた人を、自分は振り続けた。
ちゃんと向き合わなかった。
それなのに、再会して。
優しくされて。
安心できて。
今さら好きになるなんて。
そんなの、自分勝手すぎる。
文姫は静かに視線を落とす。
もしかしたら。
洸太にとって一番幸せなのは、自分みたいな曖昧な人間じゃなくて。
桃花みたいに、ちゃんと“好き”を伝えられる人なのかもしれない。
四年間。
ずっと想い続けて。
ちゃんと真正面から洸太を見てきた人。
その方がきっと、洸太は幸せになれる。
文姫は小さく息を吐く。
それから、ゆっくり頷いた。
「……分かった」
桃花が目を見開く。
文姫は少しだけ笑う。
でもその笑顔は、どこか力がなかった。
「平井さんの方が、ちゃんと洸太を見てる」
その言葉を口にした瞬間。
胸の奥が、ゆっくり痛んだ。
でも文姫は、それが当然の痛みだと思った。
自分は、洸太を好きになっていい人間じゃない。
心のどこかで、まだずっとそう思っていたから。
文姫はバッグから財布を取り出し、カフェ代をテーブルへ置く。
桃花が何か言おうとした。
でも文姫は、小さく首を振る。
席を立つ。
そのまま店を出ようとして。
文姫は一度だけ立ち止まった。
振り返る。
桃花が不安そうな顔でこちらを見ていた。
文姫は少しだけ笑う。
「……絶対、洸太を幸せにしてね」
その言葉を残して、店を出た。
外の空気は少し冷たかった。
曇った空。
湿った風。
文姫はゆっくり歩きながら、ふぅっと息を吐く。
後悔と喪失が襲ってくる。
でもこれでいいんだと思った。
これ以上、自分が洸太を振り回しちゃいけない。
その夜。
文姫はベッドへ横になったまま、ぼんやり天井を見つめていた。
部屋は静かだった。
でも頭の中だけ、ずっと騒がしい。
多分。
これを言ったら、洸太は傷つく。
あんなに真っ直ぐ気持ちを伝えてくれたのに。
また自分は、逃げる。
でも。
きっとその方がいい。
桃花みたいに、ちゃんと洸太を見てくれる人と一緒になった方が。
その方が、洸太は幸せになれる。
文姫は小さく目を閉じる。
たった数日だった。
でも。
ここ何年かで、一番濃い時間だった。
笑って。
安心して。
好きな人に触れられて。
幸せだったな、と文姫は思う。
文姫は震える指でスマホを開いた。
LINEを開く。
洸太とのトーク画面。
何度も見返したやり取り。
優しい言葉。
不器用な気遣い。
文姫は唇を噛みながら、ゆっくり文字を打つ。
『この前、洸太に可能性があるようなこと言ったけど』
指が止まる。
胸が苦しい。
それでも文姫は続けた。
『あれは熱があって、少しおかしくなってたみたい』
『やっぱり、洸太のことを恋人としては見れない』
涙で画面が少し滲む。
文姫は震える息を吐きながら、最後の文章を打った。
『あなたをちゃんと見てくれる人がいるんだから、その子を大事にしてね』
送信ボタンの上で、親指が止まる。
怖かった。
でも。
これでいい。
これが、洸太のためだ。
文姫は小さく目を閉じる。
「……ありがとう、洸太」
震える親指が、ゆっくり送信ボタンへ触れた。
――ピロン。
静かな部屋に、送信音が響く。
仕事を終えた洸太のスマホ画面へ、一通のLINEが表示された。
文姫は何も言えなかった。
桃花の気持ちが痛いほど伝わってくる。
軽い恋じゃない。
四年間。
ずっと積み重ねてきた想いだ。
その事実が、胸の奥へ重く沈む。
文姫はカップへ視線を落とした。
アイスコーヒーの氷が、小さく音を立てる。
本当に自分が洸太を好きだと言っていいのか、分からなくなっていた。
十年前。
あんなに真っ直ぐ好きでいてくれた人を、自分は振り続けた。
ちゃんと向き合わなかった。
それなのに、再会して。
優しくされて。
安心できて。
今さら好きになるなんて。
そんなの、自分勝手すぎる。
文姫は静かに視線を落とす。
もしかしたら。
洸太にとって一番幸せなのは、自分みたいな曖昧な人間じゃなくて。
桃花みたいに、ちゃんと“好き”を伝えられる人なのかもしれない。
四年間。
ずっと想い続けて。
ちゃんと真正面から洸太を見てきた人。
その方がきっと、洸太は幸せになれる。
文姫は小さく息を吐く。
それから、ゆっくり頷いた。
「……分かった」
桃花が目を見開く。
文姫は少しだけ笑う。
でもその笑顔は、どこか力がなかった。
「平井さんの方が、ちゃんと洸太を見てる」
その言葉を口にした瞬間。
胸の奥が、ゆっくり痛んだ。
でも文姫は、それが当然の痛みだと思った。
自分は、洸太を好きになっていい人間じゃない。
心のどこかで、まだずっとそう思っていたから。
文姫はバッグから財布を取り出し、カフェ代をテーブルへ置く。
桃花が何か言おうとした。
でも文姫は、小さく首を振る。
席を立つ。
そのまま店を出ようとして。
文姫は一度だけ立ち止まった。
振り返る。
桃花が不安そうな顔でこちらを見ていた。
文姫は少しだけ笑う。
「……絶対、洸太を幸せにしてね」
その言葉を残して、店を出た。
外の空気は少し冷たかった。
曇った空。
湿った風。
文姫はゆっくり歩きながら、ふぅっと息を吐く。
後悔と喪失が襲ってくる。
でもこれでいいんだと思った。
これ以上、自分が洸太を振り回しちゃいけない。
その夜。
文姫はベッドへ横になったまま、ぼんやり天井を見つめていた。
部屋は静かだった。
でも頭の中だけ、ずっと騒がしい。
多分。
これを言ったら、洸太は傷つく。
あんなに真っ直ぐ気持ちを伝えてくれたのに。
また自分は、逃げる。
でも。
きっとその方がいい。
桃花みたいに、ちゃんと洸太を見てくれる人と一緒になった方が。
その方が、洸太は幸せになれる。
文姫は小さく目を閉じる。
たった数日だった。
でも。
ここ何年かで、一番濃い時間だった。
笑って。
安心して。
好きな人に触れられて。
幸せだったな、と文姫は思う。
文姫は震える指でスマホを開いた。
LINEを開く。
洸太とのトーク画面。
何度も見返したやり取り。
優しい言葉。
不器用な気遣い。
文姫は唇を噛みながら、ゆっくり文字を打つ。
『この前、洸太に可能性があるようなこと言ったけど』
指が止まる。
胸が苦しい。
それでも文姫は続けた。
『あれは熱があって、少しおかしくなってたみたい』
『やっぱり、洸太のことを恋人としては見れない』
涙で画面が少し滲む。
文姫は震える息を吐きながら、最後の文章を打った。
『あなたをちゃんと見てくれる人がいるんだから、その子を大事にしてね』
送信ボタンの上で、親指が止まる。
怖かった。
でも。
これでいい。
これが、洸太のためだ。
文姫は小さく目を閉じる。
「……ありがとう、洸太」
震える親指が、ゆっくり送信ボタンへ触れた。
――ピロン。
静かな部屋に、送信音が響く。
仕事を終えた洸太のスマホ画面へ、一通のLINEが表示された。