私の恋を探してください

 ――今日は、悪かった。
 ――でも、少しでも、今の状況に疑問を持つようなら、言ってくれ。

 ――相談は無料だ。


 私は、クスリ、と、口元が上がる。

 ――謝らなくても良いのに。

 けれど、メールから、彼のバツの悪そうな表情が思い浮かぶ。 

 ――年上なのに、少年のよう。

 それは、彼の性格なのか、育った環境なのかはわからないけれど――その真っ直ぐさは、自分には、到底持てないもの。


「――……うらやましいな……」


 私は、不意にこぼれた言葉に、硬直する。
 うらやましい、なんて、感情は、もうとっくに捨てたはずなのに。

「琴ちゃん、もう、できたけど?」

「あっ、ハ、ハイッ!」

 思考が逸れかけたところで、階下(した)から、勝兄さんの声が聞こえ、現実に引き戻された。
 私は、すぐにスマホを置くと、キッチンへと向かったのだった。



「琴ちゃん」

「――ハ、ハイ」

 夕飯の片付けなどもすべて終え、もう、後は寝るだけになると、勝兄さんに声をかけられた。
 彼の部屋は、階下(した)にある。
 私は、階段にかけた足を戻すと、彼の元に向かった。

「……あ、あの……?」

「おいで、琴子(・・)

 ――呼び捨てにされると、身体が硬直してしまう。

 それは――朝の事があったせいか。

 勝兄さんは、私を抱き締めると、キスを何度も繰り返しくれる。
 私は、それに逆らわないように、キツく目を閉じた。

「――ちゃんと、慣れていこうね、琴子」

 彼は、そう言いながら私を力任せに引き寄せると、頬を手で固定し――


「――……っぅ……っ……!!!?」


 口の中に入り込んできたものの生々しさに、跳ね上がってしまいそうになるが、あっさりと押さえ込まれた。

 ――……何、コレ。

 ――……ま、勝兄さんの……舌……?

 その事実に呆然としていると、彼は、更に深く私の口内に舌を入り込ませ、ついには私のものに絡め始めた。

「――んんっ……ぅんっ……!!!」

 耳に届き始める水音に、目まいがしそうだ。

 ――……どうしたら良いの?

 嫌だと、気持ち悪い、と、突き飛ばしたら――きっと、もう、ここから出してもらえないだろう。

 それくらい、簡単に想像できる。

 ――なら……機嫌を取るしかない。

 私は、恐る恐る、彼の腕に触れる。
 すると、しばらくの間、激しく貪られ――そして、解放された。

「――はっ……はぁっ……はあぁっ……!」

 酸欠状態寸前で、呼吸を整えていると、勝兄さんは、私の口元をそっと指で撫でる。

「――……琴子、気持ち良かった?」

 私は、ぼんやりとした視界に入った彼の、うっとりとした表情に、頭の片隅で恐怖を覚える。
 けれど、かすかにうなづいて返すと、優しく頭を撫でられた。

「――愛してるよ、俺の琴子」

「……ま……さ、る、兄さん……」

 彼は、よろよろと、足に力の入らない私を抱え上げると、そのまま自分の部屋に入る。

「――え、あ、あの……」

「大丈夫だよ。ただ、一緒に寝たいって思ってさ――昔みたいに」

 私は、彼に寄りかかりながら、コクリ、と、うなづいて返す。

 ――……昔は……私がお昼寝をしていると、いつの間にか彼が隣に寝ていた事がよくあった。

 それは、もしかして――そういう目(・・・・・)で見ていたからだろうか。

 そう思うと、背筋が凍る。

 ――……でも――……いずれ、コレが日常になるのだ。

 なら、今から、我慢する練習だと思って、やり過ごすしかない。

 私は、大きなベッドに入り込む勝兄さんの隣に、おずおずと並んで横になる。
 彼は、優しく私を抱き締めると、うれしそうに、つぶやいた。


「――ああ、本当に、早く子供が欲しくなったなぁ……」


 瞬間、跳ね上がるように顔を上げると、彼は、苦笑いで首を振った。

「いや、違う違う。ちゃんと我慢するってば。――ただの、願望」

「――あ……す、すみません……」

 もう、彼の言動の一つ一つに、恐怖を覚えるようになってしまっている。

 ――……きっと……本当の恋人だったら、幸せだったんだろうか……。

 不意に頭をよぎった思い。
 今までだったら――きっと、考えもしなかった事。

 千谷沢さんの、真っ直ぐな言葉が、自分に深く刺さっていたのだと、今さらながら、気がついた。
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