私の恋を探してください
 奥川さんが、給湯室に向かうと、千谷沢さんは、私を見やり言った。

「琴子、あと、何か覚えてるコトはあるか?」

「――えっと……」

 何か、と、言われても……何かイレギュラーが起きた訳でも無く、平穏な日々だった記憶しか無い。

 毎日、両親が田んぼに行っている間、私の朝ご飯を用意してくれて、学校から帰ってきたら、蔵に連れて行ってくれて、いろんな事を教えてくれて――。

 たとえ、学校で遠巻きにされようが、腫れ物扱いされようが――おばあ様にいろんなお話を聞いているだけで、楽しい記憶に上書きされていたのだ。

 だから、施設に入ったとしても、おばあ様が私の支えである事に変わりは無い。

 ――……だから――……おばあ様が、あんな風に想い続けている人に会わせたいと思う。

 私には、それくらいしか、恩返しの方法が思いつかないのだから。


「とにかく、汐見さん。僕等も、できる限り急ぐから――何でも良いから、他に思い出したら教えてくれるかな」
「ハ、ハイ」
「後、おばあ様の施設の事も教えてくれる?」
「え」
「医療機関と繋がっているのかとか――終末(・・)は、帰宅させるのか、とか――」
「――……あ、え……っと……」
 私は、奥川さんの言葉に、反応が遅れる。

 ――”週末”ではなく――”終末”。

 その言葉の意味を把握したくない、とばかりに、頭の中が完全に固まった。

「……ゴメン。でも、覚悟はしておいた方が良いと思う」

「颯介、今言うコトかよ」

「僕は、現実を認識してもらいたいだけだよ。――昔だって、あっただろ」

 奥川さんの言葉に、千谷沢さんは口を閉じた。
 そして、視線を私に向ける。

「……悪ぃな、琴子。結構あったんだよ。……こっちは、良かれと思って黙ってたら、逆効果ってコトが、何度もさ」
「――……そう……ですか……」
「だから、僕達が探偵始めた時、決めたんだよ。不利な事でも、相手の機嫌を損ねる事でも、ちゃんと説明する。――それで、依頼が取りやめになろうとも」
 私は、うなづくと、彼等を見やる。

「――……わかりました。……私、できる限り、情報を集めます」

 ――……今の私にできる事は、きっと、それくらい。

 でも、彼等にとって必要なら、頑張りたいと決意した。
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