私の恋を探してください
「じゃあ、ひとまず、おばあ様の女学校がどこにあったのか、調べてみるね。一応、年齢と、あった場所自体はハッキリしている事だし」

 奥川さんは、書き終えたバインダーを閉じると、真向いに座っていた私に言った。

「――ハイ。よろしくお願いいたします」

「承知いたしました。何か進展があれば、ご連絡いたしますので」

 やり取りを終え、私は、深々と千谷沢さんと奥川さんに頭を下げた。

「――お二人だけが、頼りです。……私の方でも、おばあ様の話など思い返して、何か新しい記憶が出てきましたら、ご連絡差し上げますので」

「ああ。――じゃあ、気をつけて帰――……」

 千谷沢さんは、不自然に言葉を切ると、私をまじまじと見つめた。
 それだけで、全身金縛りになりそうだ。

 女装していなくても――彼は、綺麗なのだ。

 私よりも少しだけ高い身長だけど、目は切れ長で、鼻筋もスッと伸びている。
 肌も綺麗だし――……。

 そんな風に思考回路がフラフラさまよっていると、彼は、眉間にシワを寄せた。

「……お前、電車かバス、あるのかよ」

「……へ?」

 キョトンと返すと、奥川さんは、気がついたようにうなづく。
「そうだね。――今、十八時だけど……」

「――……っ……‼」

 私は、急いで踵を返すと、入り口のドアノブに手をかける。


「で、ではっ‼」


 それだけ言って、駆け出した。

 ――最終電車は、十九時十五分。これ逃したら――帰宅できない。

 そして、終点から乗り換えで更に一時間。
 着いた駅から、バスで三十五分――なんだけれど、今日は、もう、バスは間に合わない。
 なので、兄から迎えに来てもらわなければならないのだ。

 こんな生活も、もう、二年目だ。

 どうせなら、一人暮らしを――と、思わないでもなかったけれど、おばあ様が心配だったし――何より、自分ができるとは思えなかった。

「おい、琴子」

「ふあっ⁉」

 すると、追いかけてきたのか、千谷沢さんに再び名前を呼び捨てにされ、階段から足を踏み外しそうになる。


「おいっ!!!」


 慌てて手すりを――と、手を伸ばす前に、ガシリ、と、身体を抱えられた。

「――……っ……っ……!!!」

 フワリと、鼻腔をくすぐるのは――男性用の香水?

 これまで近くにいた男からは、こんな香りした事なんてない。

 そして、軽々と持ち上げられると、踏板に立たされた。

「……大丈夫か」

「……っ――ダッ、イジョ、ブデスッ……」

 どこの国の人かと思うほどのカタコトでうなづくと、私は、その場で棒立ちになってしまう。

「……お前、駅前で変な勧誘に引っかかりそうだな……」

 眉を寄せた千谷沢さんは、至近距離で私をのぞき込んで、しみじみと言う。

「へ、平気ですよ!」

 ようやく、日本語が発せられるようになったので、思い切り首を振ると、日が落ちかけてきた景色を見やる。

 ――早く帰らなきゃ。

 私は、改めて頭を下げると、C・O(シー・オー)探偵事務所を後にしたのだった。
< 6 / 6 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

Runaway Love

総文字数/581,778

恋愛(ラブコメ)382ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
あたしに、恋愛は必要ない――絶対に、逃げてやるんだから。
大嫌い同士の大恋愛

総文字数/189,865

恋愛(ラブコメ)143ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
男嫌いと女嫌いの恋愛なんて、成立する訳がない。 そう、思っていたのに。
大嫌い同士の大恋愛     ー結婚狂騒曲ー

総文字数/194,853

恋愛(ラブコメ)143ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
天敵だった幼なじみと、 まさかの恋人同士になって二年。 プロポーズもされ、いよいよ結婚へと向け 幸せな日々のはずが……

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop