私の恋を探してください
「まっ……勝兄さん!!」
『琴ちゃん、どうかしたの?』
その、平然とした返しに、私は、言葉に詰まった。
「……え、あの……今、大学の先生から、集落の方で土砂崩れが起きたと……」
『ああ、それ、こっちじゃなくて、もう二山向こうの大濠集落だよ。まあ、ウチの裏山も、ちょっと危なそうだったから、今、みんなで、”端台の家”に避難してるんだけどね」
「……そ……そう、だったんですか……」
”端台の家”は、集落で、一番町に近い――山から離れている場所で、何かあった時の避難場所だ。
そこを管理しているのが、今度、兄さんの奥さんになる女性の実家で、建物自体も、その家の敷地内にある。
『――心配したの、琴ちゃん?』
「――……っ……あ、当たり前じゃないですかっ……!」
どこかうれしそうに言われ、思わず声を荒らげてしまう。
だが、すぐに、ここが、大学の構内だという事を思い出して口を閉じた。
周囲の、珍しいものを見るような視線から逃れ、私は、すぐそばにあったベンチに腰を下ろす。
『――ゴメンね、琴ちゃん。すぐに連絡しておけば良かったかな』
勝兄さんは、少々、沈んだ声で返す。
私の真剣さが理解できたようなので、うなづいた。
「……ウチは、集落の総代なんです。……皆さんに何かあったら、駆け付けなければなりませんので」
先ほどの、心臓が握りつぶされるような不安を、勝兄さんに伝えたら――きっと、このまま、結婚して家に入れと言われそうな気がしたので、少々すり替えた。
『まあ、そうなんだけどね。……でも、琴ちゃんが無事で良かったよ。そっちに泊まってて、ラッキーだったね』
「……ハイ……ありがとうございます……」
勝兄さんは、電話の向こうで何か言われたようで、遠くに返事を返すと、私に言った。
『――それでさ、琴ちゃん。こっちは、みんな、家の状況が、まだ、安心できないんだよ』
「ハ、ハイ」
『だから、総代が、しばらく、そのまま、そっちに滞在していてほしいって言ってるんだ』
「――……え」
私は、思わぬ言葉に目を丸くする。
返事に詰まっていると、不意に、勝兄さんの慌てた声が耳に入ってきた。
「……ま、勝兄さん?」
『琴子!』
「――……っ……と、父……さん……?」
一気に心臓が冷えて、声が固まった。
――まさか、本人が出るとは思わなかった。
けれど、私の動揺は、父親の有無を言わせない言葉で吹き飛んだ。
『いいか!勝を、一旦、そっちにやる!何だ、あの、”ういーくりーまんしょん”とかいうヤツを探してもらえ!絶対に、こっちには帰って来るな!』
言うだけ言って、受話器を返された勝兄さんは、少々気まずそうに続けた。
『――……ゴメン、琴ちゃん。総代、今、ちょっと役所とかの繋ぎで、バタバタしてるんだ。田んぼと畑は、真人と俺で何とかするつもり。だから、琴ちゃん、何かあったら連絡するけど、しばらく家には帰れないと思って』
「……わ……わかりました……」
『じゃあ、落ち着いたら、夕方くらいには大学に迎えに行くよ。そしたら、すぐに不動産屋に行こう』
「――ハイ……」
どこか、浮かれたような声音に、一瞬、ギクリ、と、身体が固まった。
――……まさか、見つけた部屋で、一緒に住むとかは……無い……よね……。
私は、それ以上考えたくなくて、思考を止めた。
そして、すぐにスマホをバッグにしまうと、講義に遅れまいと、四号棟へと早足で向かったのだった。
『琴ちゃん、どうかしたの?』
その、平然とした返しに、私は、言葉に詰まった。
「……え、あの……今、大学の先生から、集落の方で土砂崩れが起きたと……」
『ああ、それ、こっちじゃなくて、もう二山向こうの大濠集落だよ。まあ、ウチの裏山も、ちょっと危なそうだったから、今、みんなで、”端台の家”に避難してるんだけどね」
「……そ……そう、だったんですか……」
”端台の家”は、集落で、一番町に近い――山から離れている場所で、何かあった時の避難場所だ。
そこを管理しているのが、今度、兄さんの奥さんになる女性の実家で、建物自体も、その家の敷地内にある。
『――心配したの、琴ちゃん?』
「――……っ……あ、当たり前じゃないですかっ……!」
どこかうれしそうに言われ、思わず声を荒らげてしまう。
だが、すぐに、ここが、大学の構内だという事を思い出して口を閉じた。
周囲の、珍しいものを見るような視線から逃れ、私は、すぐそばにあったベンチに腰を下ろす。
『――ゴメンね、琴ちゃん。すぐに連絡しておけば良かったかな』
勝兄さんは、少々、沈んだ声で返す。
私の真剣さが理解できたようなので、うなづいた。
「……ウチは、集落の総代なんです。……皆さんに何かあったら、駆け付けなければなりませんので」
先ほどの、心臓が握りつぶされるような不安を、勝兄さんに伝えたら――きっと、このまま、結婚して家に入れと言われそうな気がしたので、少々すり替えた。
『まあ、そうなんだけどね。……でも、琴ちゃんが無事で良かったよ。そっちに泊まってて、ラッキーだったね』
「……ハイ……ありがとうございます……」
勝兄さんは、電話の向こうで何か言われたようで、遠くに返事を返すと、私に言った。
『――それでさ、琴ちゃん。こっちは、みんな、家の状況が、まだ、安心できないんだよ』
「ハ、ハイ」
『だから、総代が、しばらく、そのまま、そっちに滞在していてほしいって言ってるんだ』
「――……え」
私は、思わぬ言葉に目を丸くする。
返事に詰まっていると、不意に、勝兄さんの慌てた声が耳に入ってきた。
「……ま、勝兄さん?」
『琴子!』
「――……っ……と、父……さん……?」
一気に心臓が冷えて、声が固まった。
――まさか、本人が出るとは思わなかった。
けれど、私の動揺は、父親の有無を言わせない言葉で吹き飛んだ。
『いいか!勝を、一旦、そっちにやる!何だ、あの、”ういーくりーまんしょん”とかいうヤツを探してもらえ!絶対に、こっちには帰って来るな!』
言うだけ言って、受話器を返された勝兄さんは、少々気まずそうに続けた。
『――……ゴメン、琴ちゃん。総代、今、ちょっと役所とかの繋ぎで、バタバタしてるんだ。田んぼと畑は、真人と俺で何とかするつもり。だから、琴ちゃん、何かあったら連絡するけど、しばらく家には帰れないと思って』
「……わ……わかりました……」
『じゃあ、落ち着いたら、夕方くらいには大学に迎えに行くよ。そしたら、すぐに不動産屋に行こう』
「――ハイ……」
どこか、浮かれたような声音に、一瞬、ギクリ、と、身体が固まった。
――……まさか、見つけた部屋で、一緒に住むとかは……無い……よね……。
私は、それ以上考えたくなくて、思考を止めた。
そして、すぐにスマホをバッグにしまうと、講義に遅れまいと、四号棟へと早足で向かったのだった。


