恋が終わる音がきこえた

橘彪雅

教室はもうほとんど空っぽだった。

窓の外は少し暗くなっていて、
風の音だけが聞こえる。

机の上のプリントをまとめながら、
一人で最後の確認をしていた。

「……よし」

小さく呟いて、
鞄にしまおうとした時。

ガラッ

教室のドアが開く。

「まだいたんだ」

その声に、
びくっとして振り向く。

橘彪雅だった。

いつも通り、
だるそうに立っている。

「……なんでいるの」

「忘れ物」

短くそれだけ言って、
自分の席の方へ歩いていく。

私はそのまま、
動けずに見ていた。

彪雅は机の中を軽く探して、
すぐに立ち上がる。

「じゃあ」

それだけ。

またこっちを見ることもなく、
教室を出ていく。

扉が閉まる音が、
やけに大きく感じた。

教室のドアが閉まって、
また静けさが戻る。

さっきの一瞬だけが、
やけに残っていた。

「……」

鞄を持ち上げて、
机の中をもう一度確認する。

別に何も変わってないのに、
少しだけ落ち着かなかった。

「帰ろ」

小さく呟いて、
教室の電気を消す。

廊下に出ると、
さっきより空気が冷たかった。

階段を降りかけた時。

「おい」

後ろから短い声。

振り返ると、
橘彪雅が階段の下に立っていた。

「まだいたの」

思わずそう言うと、

「さっきの」

それだけ返ってくる。

「え?」

彪雅は一瞬だけ視線を上げて、

「プリント、落としてた」

そう言って、
手元の紙を軽く持ち上げた。

「……あ」

気づいて、
一歩近づく。

受け取ろうとした瞬間、
彪雅の指先と少しだけ触れる。

ほんの一瞬。

「……」

彪雅は何も言わない。

私も何も言えないまま、
紙を受け取る。

「じゃ」

それだけ言って、
彪雅はまた階段を下っていく。

その背中を見て、
しばらく動けなかった。

階段を降りる音が、
ゆっくり遠ざかっていく。

私は紙を見下ろしたまま、
しばらく動けなかった。

さっき触れた指先だけが、
やけに残っている。

「……なにしてんだろ」

小さく呟いて、
プリントを鞄にしまう。

廊下はもう誰もいなくて、
自分の足音だけが響いた。

校舎を出ると、
夕方の空はもう暗くなりかけていた。

風が少し冷たい。

でも、そのまま歩いた。

< 10 / 10 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

君の声に触れた日

総文字数/18,797

恋愛(学園)10ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
――はじめて声を聞いた瞬間、世界が少しだけ優しくなった。 交わるはずのなかった心が触れた日、 わたしたちはきっと“運命”を知ってしまった。 淡くて痛くて、でも確かに温かい恋のものがたり。
恋も権力もわたし次第

総文字数/6,504

恋愛(逆ハー)9ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
ここでは、ひとつの絶対ルールがある。 ――“お嬢”がすべてを決める。 ランクも、恋も、未来さえも。 高橋月姫奈(たかはしつきな)。 ヤクザの跡取りの婚約者であり、 圧倒的カリスマで全校生徒に慕われる、最強の「お嬢」 アクセスすれば誰もが振り返るその存在感は、恐れだけじゃなく憧れをも集めてしまう。 だけど、つきなの世界はいつも騒がしい。 上位ランカーの男子たちは、 全員つきなに夢中。 守りたがる、奪いたがる、惚れ直す。 学園も家も、“恋の戦場”みたい。 そんな中で現れる、天才肌の男子たち。 幼なじみみたいに懐いてくる子。 距離感がバグってる子。 思いの重さが静かで深い子。 そして――つきなの人生を変える、本命。 権力×恋×青春が入り混じった、甘くて、時々息が止まりそうな物語。 強くて可愛い“お嬢”が、たくさんの想いに 揺れながら、最後に選ぶ“たった一人”は誰なのか。 恋も。権力も。わたし次第。 読み始めれば最後まで止まらない、究極の逆ハーレム物語。 あなたの推しは、誰ですか?

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop