執拗な恋、夜を飲み干す。
Epilogue
──二週間後


 仕事終わり、バーの扉を開けて中に入ると、すぐに玲さんと目が合った。付き合い始めて二週間が経つのに未だにこの状況には慣れず、視線がぶつかるだけで顔が火照る。


「いらっしゃい」

「…はい」


 そんな私達の様子を、雅さんが眉を顰めて眺めていた。


「…だりぃ、この空気感」

「うるさい。早く向こうの接客に行って」

「はいはい」


 相変わらずの会話を済ませて雅さんが離れていくと、私はカウンターのいつもの席に腰を下ろした。

 確かに今の私達の空気感はどこか焦れったく、何とも言い難い。自分達ですら少しやりづらい雰囲気を自覚しているくらい。

 あの夜から二度ほど顔を合わせ、食事などには出かけているのだけど、未だに夢心地のままで、彼が自分の恋人になったなんてまだ信じられずにいた。


「今日は仕事大変だった?」

「うん。ちょっとだけ」

「そっか、お疲れ様」


 そう言葉を交わしながらも、玲さんの手元はカシスオレンジを完成させていく。そしてそのまま私の前へグラスを置き、いつも通りの所作で洗い物を始めた。

 その姿は二年の間に何度も見慣れているはずなのに、どうしても飽きずに見惚れてしまう。


「見すぎ」

「…つい」


 私の返答に玲さんは少し楽しそうに笑うと、「今日はどうする?」と自然なトーンで会話を続けた。その質問の意図は、この後彼の家に来るかどうか、ということ。そんな会話を当たり前に交わせる日が来るなんて思ってもみなくて、こんな些細な問いかけにすら、じーんと胸が温かくなった。


「お邪魔してもいいですか?」

「もちろん」


 恋人らしい甘い雰囲気は、まだ少し足りないかもしれない。それでも、今のこのもどかしくも優しい空気感が堪らなく心地よくて、こんな何気ない瞬間にだって彼を好きだと何度も自覚する。


「玲さん」

「ん?」

「好きですよ」


 以前までは、ただ一方的に伝えるだけだったこの言葉。昔は困ったように苦笑いされるだけだったのに、今の彼は私の言葉を受け止め、優しく微笑み返してくれる。

 もう、私の好意が彼を困らせることはない。


「俺も、好きですよ」


 返ってきたのは、そんな優しいお返しの言葉。

 彼のこの幸せそうな表情を見続けられるなら、私は何度だってこの言葉を紡ごう。後悔しない日々を過ごしていくためにも。



『執拗な恋、夜を飲み干す。』
End
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