指先で恋を伝えて
水曜日、私は少しだけおしゃれをして、待ち合わせ場所に向かう。
駅前の時計塔。
そこには、白いカットソーにシンプルなジャケットを羽織った雅人さんと、可愛い花柄のトップスを着た彩羽さんが居た。
普段スーツの雅人さんのカジュアルな装いに、なぜだかドキドキと鼓動が早くなる。
「すみません。お待たせしました」
「いや、俺たちも今来たところ」
「彩羽さん、こんにちは」
と、私は練習してきた手話で挨拶をする。
彩羽さんはぱっと顔を輝かせると、嬉しそうに両手を動かした。
『こんにちは!』
以前より少しだけ、その動きが分かる。
ちゃんと会話になっている。
それだけで、胸の奥がくすぐったくなった。
私と彩羽さんのやり取りを見ていた雅人さんは、ちょっと嬉しそうに目を細める。
「じゃあ、行こうか」
すると、彩羽さんがいたずらっぽく笑い、両手を動かした。
『ごめんね』
そこまでは分かった。
でも、そのあとが早すぎる。
「えっ……?」
私が目を瞬かせている間に、彩羽さんはにこにこと笑ったまま雅人さんの背中を押す。
「彩羽?」
雅人さんが呆れたように名前を呼ぶ。
けれど。
『じゃあね!』
最後だけは、ちゃんと分かった。
彩羽さんは、そのまま楽しそうに手を振り、人混みの中へ消えていってしまった。