指先で恋を伝えて
数日後。

サロンへやって来た彩羽さんは、私の顔を見るなり嬉しそうに両手を動かした。

『お兄ちゃん、ずっと機嫌いい』

「彩羽」

隣で雅人さんが困ったように眉を寄せる。
そのやり取りに、思わず笑ってしまった。

前なら分からなかった言葉が、今はちゃんと分かる。
それが、少しくすぐったくて嬉しい。

彩羽さんが、再び、両手をひらひら動かした。それも、かなりのスピードで……。
最近じゃ、わかる単語も増えてきたのに、これでは何が何だかわからない。
私は、助けを求めるように雅人さんを見つめる。

「彩羽さんは、何て?」

すると、雅人さんは眉尻を下げ困り顔だ。
それに対して、彩羽さんは、ニヤリとしたり顔で、ペンを取り出した。
サラサラとメモにペンを走らせ、私にそれを見せる。

「彩羽!」

雅人さんの声が横から飛んで来た。
彩羽さんのメモには、こんな走り書きが……。

『お兄ちゃん、シスコンこじらせてるから、ぜんぜんモテないんだよ。美織さんが彼女になってくれて、浮かれてるの』

「ちょっ……」

慌てる雅人さんを見て、私は吹き出してしまう。
兄と妹、二人の関係は、優しくてあたかい。

『彩羽さん、ありがとう』

私たちを出会わせてくれたこと、手話を教えてくれたこと、そして、私の背中を押してくれたこと。
たくさんの感謝を込めて『ありがとう』と手で描いた。

彩羽さんは、嬉しそうに笑って、両手を動かし、言葉を紡ぐ。

『ありがとう。これからもよろしくね』

私は、胸がいっぱいで、涙が溢れそう。
でも、堪えながら何度も頷いた。

そんな私を見つめる雅人さんの手が、そっと私の指先へ触れた。
その手は、やっぱり優しくて。
私はもう、この手を離したくないと思った。
< 20 / 20 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:9

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

表紙を見る 表紙を閉じる
クリスマスイルミネーションが輝く12月。 谷野夏希は、痛みに苦しんでいた。 ふらふらと車道へ出た夏希を引き止めたイケボのイケメン朝倉翔也。 それは、運命的な出会いだった。 だんだんと距離が近づく二人。 夏希は朝倉への恋心を膨らませていた。 しかし、子どもの父親.園原将嗣が夏希の前に現れる。 シングルマザー夏希、モテ期突入か⁉ 二人の男性に想いを寄せられ、恋に仕事に子育てに大忙し。 シングルマザーのハートフルなお話です。 谷野夏希(28歳♀)イラストレーター、(シングルマザー) 朝倉翔也(33歳♂)人気小説家 園原将嗣(30歳♂)歯科医師 表紙絵はイトノコ様よりお借りしています。
表紙を見る 表紙を閉じる
冷徹外科医の溺愛は、雨の日から始まった。 倉田幸子 25歳 受付事務員 × 松澤克樹 31歳 外科医師 地味で真面目な病院受付の事務員・倉田幸子(25)。 奨学金の返済と入院中の祖母のために慎ましく暮らし、恋愛とは無縁の毎日を送っていた。 ある雨の夜、帰り道で出会ったのは、病院でも有名な海外帰りの天才外科医・松澤克樹。 冷徹で近寄りがたいと噂される彼と、ずぶ濡れの子猫をきっかけに思いがけず言葉を交わすことに。 「この子、うちで預かります」 そうして始まった、小さな命をめぐる二人の不思議な縁。 けれど翌朝、病院で再会した松澤は、いつも通りの冷たいエリート医師で――。 仕事では距離を置くはずの彼が、なぜか幸子にだけ甘く迫ってきて……? 恋を諦めていた地味女子と、クールな外科医。 雨の夜から始まる、甘くて不器用な溺愛ラブストーリー。
これはもはや事故です!

総文字数/79,971

恋愛(純愛)132ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
ヒロイン 高原 美羽 (25歳)カフェ店員      ×  ヒーロー 磯崎 誠 (30歳) 弁護士 溺愛ラブストーリー 両親の離婚で心に傷を持つヒロイン高原美羽は、カフェで働きながら慎ましい生活を送っていた。 ドラマやアニメが好きな普通の女子だが、過去のトラウマから甘えることが苦手。 美羽の働くカフェ。そこの常連客の磯崎誠は、やり手弁護士。 その磯崎が揉めている現場に遭遇したことから、美羽の運命が動き出す。 周囲の噂に心を揺らし、信じたい気持ちと傷つく怖さの間で揺れる美羽。 それでも磯崎は、「何もしなくていい」「ここにいていい」と言葉と行動で伝え続ける。 その穏やかな時間の中で、美羽の凍りついていた心は少しずつ溶けていく。 これは、 愛に臆病な女性が、守られることで初めて恋を知っていく物語。 そして、 強く抱きしめるのではなく、待つことで愛を示す大人の恋。 焦らない。奪わない。 ただ隣にいる。 その距離が、いつしか“恋”に変わっていく——。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop