醜と美そして陰謀論、を物語る。

王よ、起きて出てきなさい


『かく言ひて大聲に「ラザロよ、出て来」と呼び給へば、』
      ヨハネの福音書11章43節

 イエスは大声で言った「ラザロよ、起きて出てきなさい」……とまぁ聖書による引用はカッコいいのである。憧れでありやると楽しい。11章43節とかあの聖書内で細かく振られた目を突く小さな数字のありがたみは引用によってはじめて感じられる。おまけに中心に置いて見栄えにもこだわろう。

 この内容は分からなくても何かすごいことを言っていそうな迫力、それが聖書のパワーと歴史の重み。明治時代から今日まで続く伝統であり面白さの隠し味はキリスト教というやつ。ほら、味に深みが出ると思わないかな? 

『ペロッ……これは欧米コンプレックスを感じさせる味だ、さてはこのあいだX(Twitter)でどうして日本人は白人男性の哲学者の本ばかりをありがたがって読むの? 哲学は白人男性学じゃないよ、という指摘にショックを受けただろ? あとなんで冒頭の引用で口語訳でなく文語訳のを用いたの? 変換にひと手間かかるし読むほうも読みにくいと両方に良いことが無い、それでもそうしたのはカッコよさのためだと分かるよ。漢文調にしたのは権威付けで考えてみると文語訳の聖書って中夏と西洋の二大権威を用いたもので「聖書は文語訳に限る」とか宣うのは「僕は日本を代表する伝統的権威主義者です」と公言しているも同然だよね。そうか、つまり君ってそういうやつなんだな。スノッブと呼ばれる類の連中さ、よっ俗物、代表的日本人!』

 ……っで、こうやって冒頭に死んだ友人を甦らせるキリストの言葉を置くと、そのシーンと関係する場面がこの先に出て来るのではないかと読者の期待を高められるかも、という目論見をもっての引用となる。

 これは一種のハッタリであり、こういう引用が上手く決められれば小説が上手いと言えるかもしれない。小説やエンタメはハッタリが強ければ強いほど面白いものだ。



 さて聖書から離れてアカメの語りから物語は再開される。

「ご僭越ながら申し上げます。私はトン王子のお付きのアカメ十五世という名のものです。そして地元にて今回王位継承指名を受けたテツ王子の捜索を担当しているものでもあります」

 テツの名前が出たことでその場で動揺が広がった。もしや、生きているとでも言うのか? そうなったら一大事だぞ! お分かりのようにアカメはそれを言わないことにしている。それはこのためのものであるのだ。

「私は王から御命令書を戴きました。内容はこうです。『我が命あるかぎり、そう目の黒いうちはあの子を探し続ける。よって汝らはその覚悟でいるように!』と。ご命令通りに私は捜索隊を編成させてその地域でもってテツ王子を探し続けました。しかし情けないことに今も見つけることが出来ておりません。王よ申し訳ありません……しかし王がお亡くなりになられてから三年、捜索隊の編成は解いておりません。」

 いや……絶対に死んでいるから諦めろよ、と場にいるものたちのほとんど全員はそう思ったがそれは口にはしない。したら最後、それは王への暴言となり『いまなんて言った? お前は王の御遺志をなんだと思っているのだこの不忠義者め! 教えはどうした教えは!』

 と相手側から反論不可能な正論パンチを叩きこまれ王子と共に不利な立場に追い込まれてしまうのだ。そんな下手なことを言ったら面子丸つぶれなので黙っているのが吉だ。

 そうここでの問題はテツが死んでいると言ったら王への反逆になるという点である。もうとっくの昔に亡くなっているはずだから、こんな馬鹿げたものは無効です! とはっきりと言ってくれる唯一の存在である王妃はもう土の中なのだ。先に死んじゃったのだから無力である。

 それにしても最初の頃は概念喫茶の嬢にハマっていたあの馬鹿はかくも偉大な存在となったものだ。

「もしもあのご命令通りならば王の死後は捜索は打ち切ってもよろしいのでしょうが、私はそれをしませんでした。目の黒いうちというのは王自身のもあるでしょうが、この私の目の黒いうちは探し続けよ、王がお亡くなりになられてから私はそう解釈をして今日まで捜索を続けております」

 律儀な男だなぁ、とその場にいる男たちはみんな感心する。律儀者というのは人間社会では評価が高い。そこまでしなくても……をする者を人は尊敬してしまう。

 特にこのような絶対に見つからないだろうというものを王の御命令だからと続ける精神、立派である。もちろんこれは非合理の権化であり無駄の極みである、がそれでもやるというのが人の尊敬を買う。まさに損して得をとれ、または徳を取れとはこのことなり。お金を貸してくれた人が亡くなり遺族の方がもう返さなくていいのですよ、と言ってくれても、それでも毎月返し続ける人を誰も馬鹿にはしないものだ。

「そして思うのです。もしも王があの不幸な事故ではなく今日例えば御病気などでお亡くなりになられた際に指名書をどうしていたのかを。この三年がテツ王子が王位継承者指名を受けられる十四歳になるまで公表を控えていたのが理由と考えるとしましたら、やはり今日まで変更はしなかったろうと思われます」

 みなはアカメの言葉にがっかりした。だからそれじゃ困るんだよ! というかそうなっているから困っているんじゃないか、そんなの分かっているからどうにかしたいというのに! 解決策を言わなきゃしょうがないじゃん! もっとほかに何か無いの?

 みなは怒っているもののお分かりだろうか? ここで怒っているということは頼っているということである、頼っている相手が頼り甲斐が無い時に怒るというのは、裏を返せばその人の力をそう権力を認めているということである。よってアカメはいまこの場での最大権力者となっている。

 その彼は言った……アカメは大きな声で言った。

「王位継承者としてテツ王子を指名する。だが現在も行方不明であるために発見されるまでの間は長男であるジン王子を代理の王として指名する」

 反射的にジンは席から立ち上がった。そしてインは立ち上がれない。ジンは呼ばれインは呼ばれていないからだ。誰に? アカメにか? いや違う、どうしてかいま王の声が会議場で響いていたように聞こえたのだ。それはどこから?

「と、王は言われたと私には思われます」

 次の声はアカメのがそこにあった。よってさっきのは王がのり移っての? それとも記憶の中の声と合体して……

 次回「次男インの反応次第で内乱となるわけだが……どう折り合いをつけるか? 陰謀はまだまだ続く」
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