六点差の向こう側にある優勝

第三章 崩壊

崩れるときって、音がすると思っていた。
でも違った。
このチームの崩壊は、静かだった。
気づいたときには、もう少しずつ壊れていた。
パスがズレる。
声が重なる。
誰かの判断が一拍遅れる。
それだけのこと。
でも、その“それだけ”が積み重なっていく。
しょうへいは、変わらなかった。
変わらないまま、全部やろうとした。
「俺がやる」
その言葉は、最初は頼もしさだった。
でも、だんだん違う意味を持ちはじめる。
“他がやらなくてもいい”
じゃなくて
“他がやれなくなる”
そんな空気になっていった。
練習中。
しょうへいが叫ぶ。
「戻れ!」
でも、誰も一瞬で動けない。
遅れる。
ズレる。
間に合わない。
しょうへいの顔が少しだけ変わる。
それでもまた声を出す。
「次!」
その声だけがチームを引っ張っていた。
るきはベンチから見ていた。
足はまだ完全じゃない。
でも、目だけはコートの全部を見ている。
「また一人で背負ってる」
それは怒りじゃない。
ただの事実だった。
ある練習試合。
ここで一度、完全に崩れる。
前半はまだ形があった。
でも後半。
一気に噛み合わなくなる。
ミスが続く。
焦りが出る。
声が増える。
そして、もっとズレる。
悪循環だった。
タイムアウト。
しょうへいがベンチに戻る。
息が荒い。
「なんでだよ…」
誰に向けた言葉でもなかった。
でも、全員がそれを聞いていた。
そのあと、沈黙。
その沈黙が一番重かった。
るきが立ち上がる。
「一回整理しろ」
しょうへいは答えない。
るきは続ける。
「全部やろうとするな」
しょうへいは、やっと顔を上げる。
「じゃあどうすればいいんだよ」
その声は少しだけ震えていた。
るきは一瞬黙る。
そして、静かに言う。
「信じろ」
それだけだった。
でも、それが一番難しかった。
試合は負けた。
点差は問題じゃなかった。
問題は“何も戻らなかったこと”だった。
帰りの体育館。
誰もすぐに帰らなかった。
ベンチに座ったまま。
誰も動かない。
りゅうとは水を飲んでいる。
でも目はどこにも合っていない。
りょうはずっと床を見ている。
らいは手を組んでいる。
たけるはタオルを握ったまま固まっている。
しょうへいは一人でコートに戻る。
ボールを拾う。
ドリブル。
音がやけに響く。
ひとり。
そこにるきが来る。
「まだやるのか」
しょうへいは止まらない。
「やらなきゃダメだろ」
るきは少しだけ目を細める。
「それ、チームじゃない」
その言葉に、しょうへいの手が止まる。
ボールが転がる。
体育館の端まで転がっていく。
誰も拾わない。
沈黙。
ゆなは、その光景を見ていた。
この瞬間に気づいてしまった。
あ、このチームは今、壊れている。
でも同時に思った。
壊れているのに、まだ終わっていない。
それが一番怖かった。
その夜。
ゆながノートに書く。
「強いチームは、崩れる音がしない」
「だから気づくのが遅れる」
ページを閉じる。
でも、もう一行だけ書き足す。
「それでも、まだ終わってない」
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