六点差の向こう側にある優勝

最終章 六点差の向こう側

会場に入った瞬間、空気が違った。
音が大きいのに、静かに感じる。
インターハイ予選・決勝。
神代高校男子バスケットボール部。
そして、相手はあの日のチームだった。
88-82。
あの試合の“続き”。
コートに立った瞬間、しょうへいが一度だけ息を吐いた。
「……来たな」
その声は、驚きじゃない。
確認だった。
るきは何も言わない。
ただコートを見ている。
ゆり戻しみたいに、全部が重なる。
あの日。
崩壊。
届かなかったボール。
止まった時間。
でも今は違う。
しょうへいは一人じゃない。
るきも、完全ではないけど“いる”。
りゅうとも、りょうも、らいも、たけるも。
全部が揃っている。
でも、それでもまだ“完成”じゃないと分かっていた。
試合開始。
最初から速い。
重い。
ぶつかる。
一歩も引かない。
点が動く。
でも離れない。
ずっと同じ距離。
ゆなが記録席でペンを握る。
手が少しだけ汗ばんでいる。
「これ……ほんとに決着つくの?」
誰に言うわけでもない声。
第3クォーター。
流れが揺れる。
神代が一瞬崩れかける。
その瞬間だった。
るきが入る。
ベンチから立ち上がる。
足は完全じゃない。
でも、迷いがない。
コートに入る瞬間、空気が変わる。
しょうへいが一瞬だけ見る。
るきは頷く。
それだけ。
でも十分だった。
ボールが動き始める。
パス。
りょう。
シュート。
決まる。
守備。
らいが止める。
リバウンド。
たけるが飛び込む。
全部が繋がる。
でも、相手も崩れない。
一歩も引かない。
そして残り数秒。
88-82の“あの日の点差”と、同じような時間。
しょうへいがボールを持つ。
一瞬止まる。
あの日と同じ動き。
でも違うのは。
もう、全部が見えていることだった。
るきを見る。
るきは小さく言う。
「行け」
その一言で、しょうへいは動く。
ドライブ。
一歩。
相手が寄る。
でも、もう迷わない。
パス。
りゅうと。
シュート。
放たれる。
時間がゆっくりになる。
ボールが回転する。
リングに向かう。
ゆなが息を止める。
入るかどうかじゃない。
この瞬間が“答え”だと思った。
ボールがネットを揺らす。
決まった。
ブザー。
試合終了。
今度は、静かじゃなかった。
でも、騒がしくもなかった。
ただ、“解けた”感じだった。
しょうへいがその場に立ったまま言う。
「……やっとだな」
るきは少し笑う。
「長かったな」
りゅうとも、りょうも、らいも、たけるも、言葉は少ない。
でも、全部が伝わっていた。
ゆなは気づく。
あの日の88-82は、終わりじゃなかった。
ただの“途中の点差”だった。
負けじゃない。
勝ちでもない。
“繋がる前の形”だった。
ゆながノートを閉じる。
最後の一行。
「優勝って、点数じゃない」
「繋がりのことだ」
コートの上では、しょうへいが空を見ていた。
るきは隣に立っていた。
誰も何も言わない。
でも、それで十分だった。
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