逃げられるものならお好きにどうぞ。


本当なら私も、つい先日お付き合いを始めたばかりの黒瀬くんと二人きりで過ごす予定だった。


だけど前日になって、黒瀬くんに急な仕事の予定が入ってしまったのだ。バーでの仕事ではなく、副業の方らしい。

また美代さんと二人でパーティーに参加したりする仕事なのかな、なんて、ちょっとだけ寂しい気持ちになりながらも、それを聞く勇気はなかった。



「仕事なら仕方ないよ。私のことは気にしないで、頑張ってね」



そう声を掛けたのは、つい数日前のことだ。

そんな私の言葉に、何故か黒瀬くんは、少しだけ不機嫌そうな顔をしていたっけ。




「……あとちょっとで、今年も終わりかぁ」



――黒瀬くんは、まだ仕事中なのかな。



年が明けるまで、あと十分。

テレビ画面の向こう側で、曲の合間にアーティストが雑談している姿をぼうっと見ていれば、スマホが着信を知らせる。


誰からだろうと視線を落とせば、そこには“黒瀬くん”と、今まさに考えていた想い人の名前が表示されていた。


慌てて通話ボタンをタップして耳にあてがう。

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