逃げられるものならお好きにどうぞ。
「……――あ、もしもし、百合子さん?」
電話口の声はくぐもっていて、いつもよりほんの少しだけ低いように聞こえる。
多分外にいるのだろう、遠くの方から街中の雑踏の音も聞こえてきた。
「うん、そうだよ。黒瀬くん、仕事の方はもう終わったの?」
「ついさっき片付いたんだ。此処から会いに行くには時間がかかりそうだから、せめて電話で一緒に年越しできたらなって」
「……そっか。ありがとう」
きっと、急いで仕事を終わらせてくれたんだろうな。
黒瀬くんの気遣いを嬉しく思いながら、黒瀬くんに今日は何をしていたのかと聞かれて、先ほどまで友人と忘年会をしていたことや、今はテレビを観てのんびりしていたことを話す。
「黒瀬くんは、今外だよね?」
「うん。めちゃくちゃ寒いよ。雪も降ってきたし」
「……風邪ひかないように、帰ったら身体をあっためてね」
「百合子さんが家まできてあっためてくれてもいいんだけどね」
「……」
「冗談だよ」
――何だ、冗談だったんだ。本気に捉えてしまうところだった。
何か温かいものでも作って待っていようかな、なんて考えていたけど、黒瀬くんは仕事で疲れているだろうし、早く休みたいよね。
私がいたら、気を遣ってゆっくりできないだろうし。