逃げられるものならお好きにどうぞ。
「別に怒ってはないけど……どうしてそう思ったの?」
「どうしてって……何となく、いつもと雰囲気が違う気がしたから……」
「……」
黒瀬くんは何かを考え込むようにして黙っている。
だけど斜め下に向けていた視線をそっと持ち上げたかと思えば、真正面からじっと見つめられる。
「本当に、怒ってはないよ。けど、百合子さんに言いたいことならある」
「……言いたいことって?」
「……言っていいんだね?」
どこか勿体ぶるように間を空けて問われて、何だか聞くことに恐怖を感じてしまいながらも、コクリと頷いて返した。――次の瞬間。
「……それじゃあ、この際だからはっきり言っておくけど」
ソファの上、気づけば黒瀬くんに押し倒されていた。
両手首を抑えられて身動きが取れないまま、グッと顔を寄せられる。
垂れ下がった長い前髪の隙間から、闇夜を切り取ったように深い色をした双眸に射抜かれて、何故だか、ぞっと背筋が凍るような感覚を覚える。