逃げられるものならお好きにどうぞ。
「はい、百合子さんは白湯にしておいたよ。飲んできたばかりだし」
「ありがとう」
マグカップを受け取ってふぅふぅと息を吹きかけていれば、黒瀬くんがぴったりとくっつくような形で隣に腰掛ける。
ソファが軽く沈んで、身体が少しだけ右に傾いた。
「百合子さんは、さっきの奴と親しいの?」
「さっきのやつって……林くんのこと? 別に親しいってほどじゃないけど……同じ部署の後輩だから、同期とか交えて、時々一緒にランチしたりはするかな」
「ふーん」
黒瀬くんは自分から聞いてきたくせに、興味のなさそうな、気の抜けた声で応える。
「黒瀬くん、もしかして……怒ってる?」
何となくそう思って聞いてみれば、黒瀬くんはいつも通りの笑顔を私に向けてくる。
だけど、何となくだけど……その表情が、いつもより少しだけ強張っているように見える。
笑顔の下で、感情をじっと抑え込んでいるような、そんな気がする。