逃げられるものならお好きにどうぞ。
――無理。もう、堪えられない。
黒瀬くんが急に知らない男の子に見えてきて、恐怖とか羞恥とかぐちゃぐちゃな感情でいっぱいいっぱいになって、叫び出したくなってくる。
もはや半泣き状態だけど、黒瀬くんはそんな私の顔を見て、真顔から一変、恍惚とした笑みを携えながら、容赦なく畳みかけてきた。
「さっきの男と百合子さんが一緒にいる姿を見てさ、考えてたんだ。もし、百合子さんがほかの男と恋人同士に、なんてなったりしたら――その時は、相手の男を殺しちゃうかも」
「……」
「……なぁんてね」
――……め、目が笑ってないんですけど、黒瀬くん。
冗談には全く聞こえない冗談にプルプルと震えながらも、黒瀬くんがやきもちを妬いていたのだということがようやく伝わってきて――怖いはずなのに、それに嬉しさを感じているのも、事実で。
「俺のこと、嫌いになった?」
黙ったままの私に不安になったのか、眉を下げてしゅんとした表情になった黒瀬くん。
鼻が擦れそうなほどの至近距離で見つめられている。